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いや、まさか。そんなはずはない。
だってチキはさっき僕の腕を拘束していたロープを切ってくれた。チキは確かにここに存在している。
でも、どれだけ考えても答えは出ない。それでも考えるのをやめずに歩いていると、ふいに前を歩いていたチキの足が止まり、その背中にぶつかってしまった。
「ごめん……。って、ここは?」
チキの頭越しに見えるものは、今まで見たことも無いくらい明るく広い空間だった。チキは振り向いて僕の顔を見上げた後、スタスタとその中へと入っていく。
「サクハ。早く早く」
中央部分にあるパネルのようなものの前でチキが僕を手招きする。アレはなんだろう。僕はチキのそばまで行くと、チキが嬉しそうにこう言った。
「さあ。村人たちに復讐を」
「え?」
戸惑う僕の手を掴んだチキのチカラは強く、僕の腕はギチギチと音を立てる。
「ほら、復讐したいでしょ?サクハをあんな目に合わせたアイツらに」
「でも、復讐っていったってどうやって……」
僕は思わず一歩後ろに下がった。しかしチキがガッチリと腕を掴んでいるのでそれ以上下がることができない。ここはなんなんだ?チキは一体何を言っているんだ?
状況を整理しようと必死に頭を回転させてみても何も思い浮かばない。そんな僕をチキはニヤニヤと見上げている。
「どうしてサクハのお父さんの言うことをみんな聞くんだろうって不思議に思ったこと、なあい?」
「それは父さんが村の権力者だから……」
「いくら権力者でも、周りのみんなが一斉に言うことを聞かなくなったらそれで終わりなのにって思ったこと、なあい?」
「それは……」
僕はその後に言葉を続けることが出来なかった。だってそれは、僕がいつも考えていたことだったから。いくら父さんが権力者とはいえ、誰も彼もが父さんの言うことを聞くのをやめてしまったら、父さんの言葉には何一つとしてチカラなんてなくなるのに。村の人たちが不満を抱えているのは知っている。でもそれならば、父さんの言うことを聞かなければいいのに。村の人の愚痴を聞くたびに僕は心の中でそう叫び続けた。でも、村の人たちは父さんの言うことに逆らおうとはしなかった。
「何もしないで文句だけ言うあんな奴らにあんな目に遭わされて黙ったままでいいの?」
「それは……」
「私は絶対に許せない」
僕の腕をますますギリギリと締め付けながらチキは鬼のような顔をしながらこう続ける。
「ねえ、サクハ。サクハは私がどうして村の人たちにいないものとして扱われているか知ってる?」
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