僕が押すと決めたんです

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「……」  僕はチキからなるべく身体を離したまま、ゆっくりと首を横に振った。 「やっぱり知らなかったんだ。知ってて私に話しかけてくれてるのかな?とも思ってたんだけど、そこまでじゃなかったか。じゃあさ、サクハ。私が村八分にされている理由を知りたいなら、このボタンを押してくれない?」  チキはパネル中央にあるボタンを指差しながらそう言った。 「サクハがこのボタンを押すと、サクハが気になってることぜーんぶわかるようになるよ?」  何かを企んでいるようないやらしい笑顔のままチキは僕の顔を見つめる。 「無理やりサクハの手を使って押してもいいんだけどね。でもそれはフェアじゃないから私はしない。ほら、サクハ。押してみなよ」  チキは一体何を考えているんだろう。このボタンを僕が押せば村の人たちやチキに関する秘密がわかる? 「チキが押せばいいじゃないか」  チキが押しても秘密は明らかにされるはず。そう思った僕はチキにそう言ったけど、チキはますます表情を奇妙な形に崩しながらこう答えた。 「これはね、サクハにしか押せないんだよ」  何で僕にしか押せないんだろう。ますます意味がわからない。もし押さないと言ったらどうなる?  チキに握られている腕は血流が悪いのか、指先の感覚がなくなりつつある。まさか殺されてしまうとか。いや、僕しか押せないボタンをこれだけ押して欲しがっていると言うことは、僕を殺すんじゃなく、何としてでもボタンを押させようとするに違いない。  そこまで押して欲しいボタン。  これを押せば全てを知ることができるボタン。  僕はゆっくりと腕を上げ、ボタンへと近付ける。 「ダメだ!」  ボタンまであと少しと言うところで、大きな怒鳴り声と共にバタバタと部屋の中に何人もの足音がなだれ込んできた。 「サクハ。今すぐに帰るぞ」 「父さん?」  僕たちから距離を取る村の人たちの先頭にいたのは父さん。どうしてこの場所がわかったんだろう。いや、それよりも。父さんはこのボタンについて何か知っている? 「このボタン、なんなの?チキは全てがわかる、僕しか押せないボタンだって言うけど、父さんは何か知ってそうだね」  僕のその言葉で村の人たちが一気にざわついた。何?何か変なこと言った? 「チキ?ああ。そうか。サクハ。お前には……」  お父さんはそう言うと、僕との距離をジリジリと詰め始める。僕とお父さんの距離が近付いた分、僕の腕を握るチキのチカラが強くなり、僕は思わず叫び声を上げた。 「痛い!やめろ!やめてくれ!」
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