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4
森の中を歩いて行くと、今では珍しくなった小動物が駆け抜けていくのを見た。
「珍しい……?」
俺はまた、自分の思考に困惑した。
時々、自分が知るはずのない知識が見え隠れする。それはラントルの屋敷に籠っていた時はほとんど現れなかったが、こうして外の世界に出てから顕著になった。
「俺は、本当は奴隷じゃなく、普通に生活していたのか……?」
そう呟いた瞬間だった。
「ほう。ならばお前もまた、私の父の犠牲になった者の生き残りか?」
突然、背後に大きな気配が立ったのを感じて、驚いて振り向こうとすれば、口を獣の手で塞がれた。
「んっ、む」
「暴れるな。私だ。確かめたいことがある」
間違いなくロゼウス王の声だった。
王に逆らえるはずもなく、大人しくしていると、まず、眼帯をしている左目を撫でられ、びくりと肩が震える。
「外すぞ」
声は思いの外優しいが、有無を言わせない響きがある。
頷けば、するりと眼帯を外された。
下から現れた空洞を見たロゼウス王は、僅かに痛ましそうな顔をし、あろうことか左の瞼に唇を落とした。
「王……っ?」
驚き、声を上げれば、ロゼウス王は自分でした行動に困惑したような表情をして唇を離した。
「すまん。なぜか、こうしなければならないと感じた。こんなことで贖えるような罪ではないが」
「どういう、ことですか……?」
戸惑いを露に問えば、ロゼウス王はさらにとんでもないことをした。
その場に片膝をつき、頭を垂れたのだ。
「王!?」
「私の勘違いだったなら、それでいい。だが、もしお前が私の父、レイモンドの犠牲になった人間であれば……」
「れい、もんど……?」
その名前を聞いた途端だった。一瞬にして、目まぐるしい記憶の洪水が襲いかかり、ふらつき、倒れ込みそうになった。
「セルディーノ!」
ロゼウス王が咄嗟に俺の体を抱き寄せ、倒れるのを防ぐ。
「ろ、ぜうす様……」
「いい。今はそのまま、何も話すな。お前を奴隷市で目にした時、私はどこかで見たような気がしたから、買うことにしたんだ。その様子を見るに、直感は当たっていたようだな。償いになるかは分からないが、お前には最高級のもてなしをする」
「もてなし、とは……」
「お前は不快かもしれないが、表向きは私の番だということにすれば……」
「つ、がい……?」
それは、どういう意味だったか。答えに辿り着く前に、意識は霞み、闇の中へ沈んだ。
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