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 宮殿に辿り着くと、ロゼウス王はすぐに四足歩行の姿に戻った。獣人が姿を変える瞬間を目の当たりにするのは初めてだったが、ロゼウス王はほとんど瞬きする間のほんの僅かな間だった。  そして、当然宮殿の中に入るのかと思ったが、俺を配下の者に預けると、そのまま外の森のように広がる場所へ向かって行く。何十軒もの家が余裕で入るほど庭も広々としており、森も一応敷地内ではあるのだが、一人で向かうその背中はどこか寂しげにさえ見えた。 「あの、ロゼウス様は」  ロゼウス王の配下である猫の獣人に尋ねると、猫らしくまったりと返される。 「ああしてお一人になりたい時もあられるのです。何しろ、ロゼウス様は若くして王になられたばかり。いろいろと悩まれることも多いのでしょう」 「王になられたばかり……?じゃあ、前の王様は最近まで……」  前王のことを尋ねながら思い出そうとするが、記憶にある限りでは俺はロゼウス王しか知らない。  もっとも、俺の記憶はラントルのところに来た5年程前より以前のものは、不自然に途切れている。その途切れた時期の間のことであれば、忘れてしまっているだけなのかもしれなかった。 「ええ……まあ、最近と言えば最近ですが……」  にこにことしていた猫の顔が曇り、言いづらそうに口籠る。 「……?」  首を傾げると、猫は咳払いをした。 「それより、お部屋をご案内いたしましょうか。私はロゼウス様の身の回りのお世話をしているサーシャと申します。気軽にサーシャとお呼びください」  丁寧に頭を下げてくるサーシャに、俺も頭を下げ返しながら名乗り、ずっと気にかかっていた疑問をぶつけた。 「あの、俺は……いえ、俺たちは、でしょうか……。どうしてロゼウス様に買われたのでしょう?やっぱり何か役割が?」  当然の質問だったはずだが、なぜかサーシャは困ったような顔をして顎に手を当てた。 「あの……?」 「えっと、その問いはロゼウス様には?」 「まだ、していません」 「……そうですか。では、ロゼウス様に直接お尋ねになられた方がいいかと」 「え……なぜ、ですか?」  てっきり配下は知っているものと思っての質問だったが、サーシャの答えは予想外のものだった。 「なぜって、私たちも実は、つい先ほど他の者が人間たちを引き連れて帰ってきた時に、初めて知ったからです。ロゼウス様のお考えはまだ私たちにも把握できておらず、今も宮殿内は反発の声で溢れているのですよ」 「えっ、そう、なんですか……?じゃあ、今すぐロゼウス様をお呼びした方がいいのでは」 「ええ……しかし、帰ってこられたばかりのロゼウス様は気が立っておられ……って、どこに行くのです?」  サーシャの話を最後まで聞かず、気が付けばロゼウスが消えた森の方へと走り出していた。 「俺、ロゼウス様を呼んできます!」  振り返りながらサーシャに叫ぶと、サーシャは何かを言っていたが、はっきりとは聞こえなかった。
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