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 夢の中で、俺は恐ろしい形相をした怪物を見た。  形は人に違いないが、振る舞いは人の心を持たない怪物そのもので、俺の大切な人たちを無惨に殺していく。  真っ赤な血の海の中で、俺が発狂すれば、その怪物は俺に切りかかってきた。  悲鳴を上げて飛び起きる。 「セルディーノ!」  誰かが俺の名を呼び、その大きな腕の中に抱きくるもうとする。だが、俺は意識がまだはっきりしていないせいか、その誰かが夢の中の怪物のように思えて暴れた。 「セルディーノ、落ち着け!」  誰かは俺の体を強引に抱き締めるが、俺はその腕を引っ搔いて逃げ出そうとする。  くそっ、とその誰かは声を上げると、俺の体を羽交い絞めにし、左瞼、それから唇へ柔らかなキスを落とした。 「え……」  俺はそのあまりに優しい感触に我に返り、眼前に迫る見事な金獅子の顔をぼんやりと見上げる。  ロゼウス王は俺の意識がはっきりしたことに気がついていないのか、口付けを深くし、口腔に大きな舌を忍ばせてきた。 「ん、む……」  驚き、身を引こうとしても、ロゼウス王は決して逃がさず、口腔を貪る。  その初めて知る熱にぼうっとしてしまいながら、頭の片隅では気を失う前のことを思い出し、困惑していた。  ロゼウス王は、父であるレイモンドの罪の償いとして、俺を番にすると言った。だが、それはかたちばかりであると言っていたはずだし、わざわざこういうことをする必要はない。  それなのに、なぜこんなに熱の籠ったキスをするのだろう。  混乱が深まる中、ロゼウス王が俺の体を横たえ、その上に伸し掛かってきて。 「ロゼウス、様。俺はもう大丈夫、ですから」  体にまで触れてこようとするのを止めれば、ロゼウス王ははっと我に返ったような顔をして、顔を顰めた。 「すまない。いくら目を覚まさせるためとはいえ、やりすぎたな」 「いえ……。あの、なぜロゼウス王は俺にこんなことを?」 「……たぶん、だが……」  ロゼウス王は、困ったような顔で俺を見て、あまりに優しく頬に触れてくる。  そのあまりの甘さにどくりと鼓動が鳴るのと、ロゼウス王が呟くように言うのはほぼ同時だった。 「お前はたぶん、私の唯一の番だ。だから、こうも勝手に体が動いて、お前を求めてしまう。だが、私はお前の愛が手に入るとは思っていない」 「ロゼウス、様……」 「私は償うためにお前を番にするが、お前は私に身も心も許す必要はない。むしろ、生涯許さないでくれ。父の罪はそれほどに重い。こうして出会ったのも、私がこの苦痛を甘んじて受け、償うためだと思えば、納得がいく」 「ロゼウス様、しかしその罪はあなた様のものではありません。あなた様が、そこまで償う必要は……」 「ではお前は、自分の両親を殺した敵の息子を、愛せるというのか?」  すぐに頷くことができずにいると、ロゼウス王は背を向けて部屋から出て行く。  頷くことができなかったのは、レイモンドへの憎しみが強かったからというよりも、ロゼウス王を愛しているかどうかまだ分からなかったからだ。  だが、それも両親に関する記憶がまだ薄いこともあるだろうし、記憶がはっきり戻れば憎く思うかもしれなかった。  ロゼウス王を追いかけようとして思い止まり、俺は戻り始めた記憶の糸を手繰り寄せ、気持ちをうまく整理することにした。
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