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7
「待て!」
部屋の出入り口に金獅子が現れ、行く手を塞ぐ。
「ロゼウス王」
俺がほっと名を呼べば、ロゼウス王は俺にちらりと目を向け、安心させるように不器用な笑みを向ける。
状況はまだ少しも安心できないが、その顔を見ただけで力が抜けた。
「お前たちの目的は何だ」
王の堂々とした声音に、侵入者たちは一瞬怯んだようだったが、すぐに気を取り直して口を開いた。
「目的だって?聞かずとも分かるだろう。ロゼウス王、俺達はずっと奴隷として扱われてきた。それもただ、人間だからというそれだけの理由だ。しかもそれだけではなく、お前の父親のせいで多くの人間が犠牲になったのは忘れたわけではあるまい?」
「……ああ、一日も忘れたことはない。だから私は、この国を変えようと獣人に掛け合ってきた」
「それで、どんな変化があった。何も変わっていないだろう」
「……」
「ロゼウス様」
俺が声を掛ければ、ロゼウス王は今度は優しい目を俺に向ける。その目に宿る色を見て、俺は嫌な予感がした。
「ロゼウス王!いけません!」
「貴様、黙れ!」
「っ……」
厳しい口調で叫んだのは、俺を捉えた人間たちではなく、ロゼウス王だった。
「ロゼウス王。今のは、お前の本性が現れた、ということで間違いないか?」
「……」
「ロゼウス様っ」
俺がロゼウス王に手を伸ばすのを、屈強な男が阻む。
「ロゼウス王、貴様はその命を持って父親の罪を、この国の人間を苦しめた罪を贖え」
男が、銃口をロゼウス王に向ける。
ロゼウス王が全く逃げようとしないのを見て、俺はどこからそんな力が出たのか、俺を捉える男の腕を振り解くと、ロゼウス王の前に走り出た。
「セルディーノ!」
ロゼウス王の悲鳴に似た絶叫が響いたのと、銃声が鳴り響いたのはほぼ同時だった。
俺の背中を、熱い激痛が貫き、俺はロゼウス王の腕の中へ倒れ込む。
こんな時だというのに、その腕は安心するほど暖かく、俺はようやく気がついた。
俺はこの王を守りたい。王が好きなんだ。
「セルディーノ、なぜこんなことを」
ロゼウス王が泣き出しそうに顔を歪めながら、俺を掻き抱く。
俺はその顔に手を当て、痛みを堪えて微笑む。
「セルディーノ」
その顔を見てはっとしたロゼウス王は、俺を抱え上げ、部屋中に響き渡る声で言い放った。
「今この時より、私は王を辞め、この者を次代の王とする。私がこの者を立派な王に育てた後、まだ私のことが気に食わなければ殺すがいい」
部屋にいる誰もが息を呑んだのが、霞みゆく意識の中でもはっきりと分かった。ロゼウス王の覚悟を確かに皆が受け止めたに違いなかった。
「ロゼウス王、その言葉を忘れるな」
男がそう言えば、部屋の中から他の人間も出て行った。
「ロゼウス様」
「サーシャ、そういうことだ。私は今日からセルディーノの側近兼、教育係だ。否は聞かんぞ」
「ええ、分かっています。さ、セルディーノ様の手当をすぐに。次代の王となられる方を死なせるわけにはいきません」
「いい。私が手当をする。サーシャ、お前は他の者への周知を頼む」
「はい、確かに」
サーシャが部屋から出て行くと、ロゼウス王は俺を抱えたまま天蓋付きのベッドへ運び込み、棚から薬品の類を持って俺の傍へ来る。
「痛いが、我慢してくれ」
「は……い」
いずれにしろ、意識はかなり霞んでいて痛みはろくに感じていない。
うつ伏せにされ、背中に食い込んだ銃弾を抜き取られると、ほっとした。
手際よく処置を施していくロゼウス王に、俺は何とか意識を保ちながら尋ねる。
「俺は、王になってしまうのですか」
「ああ。怖いか」
「いえ。少しも」
本心から言えば、ロゼウス王は笑う。
「お前は強いな」
「いえ。あなたを守れるならば、俺は何でもしますから」
「セルディーノ、お前は」
戸惑いを露にするロゼウス王に、俺はうつ伏せでいることをいいことに、するっと気持ちを打ち明けた。
「俺は、あなたが好きです。俺が言うと変かもしれませんが、あなたの父親の罪は、俺も一緒に背負い、これからの未来に繋げます」
「ああ……任せたぞ」
ロゼウス王の声に、僅かに涙が滲むのを聞き取り、俺はふっと笑う。
「何を言っているのですか。あなたも俺の傍で、一緒に未来を築くのです」
「そうだな」
ロゼウス王が傷に触れないよう、俺の体に触れてくる。
少しずつ熱を煽るような口づけの嵐を受けながら、俺はゆっくりと眠りについた。
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