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10 枝豆とビールと過去の思い出🍺
すたすたと行ってしまったみやびの後ろ姿はあっさりと公園から消えてしまったが、僕に会いに来た帰りに万が一何かあったらと、慌てて後を追う。
歩道を行くみやびの横に車が一台緩やかに止まり、中から誰かが呼び掛けたらしい。みやびは車の主と何か言葉を交わし、後部座席のドアを開けると乗り込んだ。
「──まさか年上の、彼氏候補……?」
生憎相手の姿は僕のところからは確認出来なかったが、何の警戒心もない様子で車に乗ったことを鑑みるに、知らない仲ではないはずだった。みやびは車でナンパしてくるような奴についていくような子ではない、はずだ。そう思いたい。
玉砕覚悟で、僕と付き合ってくれと言うべきだったろうか。
振られるにせよ、どうせもうすぐ会えなくなるのなら、気づいてしまったこの気持ちをぶつけた方が後悔がない。そうも思う。
──しかし相手は十六歳の女の子。僕より十歳以上も歳の離れた、未成年なのだ。もし万が一にも両思いになれたとして、交際するにはいろいろとハードルが高すぎた。
これほど年齢差をもどかしく思ったことはない。
「おー、宮田ぁ。飲んだくれてるなあ!」
無性に酔いたくなり、愚痴を言える相手を誘った。話し相手が欲しかったのだ。居酒屋で落ち合う約束をしたものの、土曜の夜に呼び出すなんて星野の恋人に悪い気もしたが、今日くらいは許して欲しい。到着した星野はやって来るなり、先に注文しておいた枝豆をひょいひょいとつまんだ。
「そっかー、みやびちゃん引っ越しちゃうのか。気軽にかまって貰えなくなるなあ。残念」
「お母さんが再婚するそうだ……。みやびは今まで一人の時間が多かったせいで僕にちょっかいかけてただけで……家族が増えるならそれは喜ばしいこと……だと思う」
「お前それ本気で言ってんのお」
早速来たビールのジョッキを旨そうに煽りながら、星野は揶揄するようにへらっと笑った。
「宮田に好意があるからかまってる、とは考えないの? まあお前無害そうだから、最初は安全牌ってことだったかもわからんけど」
「そりゃ嫌いだったら寄っては来ないだろうけど、さ」
「付き合っちゃえば? 高校卒業するまで清い関係貫けばいい。親御さんにもちゃんと真剣な交際ですってアピっとけ」
「無理だよ」
そんなこと出来るわけない。今日自分の気持ちを自覚したばかりの僕に、そこまでのプランがなかったというのもあるし、想像したらしたで感情が暴走しそうになるのが怖い。
「そりゃまあ、好きならいろいろしたいよな! 俺もそうだわはは」
「そ……そうじゃなくて、みやびが僕と付き合うわけないだろ」
「やってみなきゃわからんよ。俺なんて百回以上告白経験ある」
「それはそれで凄いけど……それだけ駄目だった数も凄いんだろ」
「それは言ってくれるな!」
星野はダンッと空になったビールジョッキをテーブルに置いた。告白回数と付き合った回数にはだいぶ開きがあるようだ。
それでも、失敗を恐れずに、相手にぶつかっていけるフットワークの軽さには見習うべきところもあった。僕はぼんやりと酒を飲み枝豆をつまみながら、みやびと初めて話した日のことを思い出していた。
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