4 おそろい 🧸

1/1

11人が本棚に入れています
本棚に追加
/15ページ

4 おそろい 🧸

 朝の通勤で使っている電車で、みやびと同じ車両になった。立っている乗客がかなり多いが、満員電車というわけでもない。みやびは乗車口の傍に立って、窓の外をぼんやりと眺めていた。  高校の制服が眩しい。  高校生である時間なんてほんの三年、大人になってしまった僕にとってはあっという間だ。  みやびはその儚い時間を生きている、綺麗な生き物だ。JKなんて単語でくくってしまうのは、もしかしたらもったいないくらいの──なんて、朝からよくわからないことを考えているのは、僕も疲れているのかもしれない。  最近残業続きだった。けれど昨夜帰宅したら嬉しいことがあったので生き返った。  みやびがポストにクッキーの差し入れをしてくれていた。そのことに対して一言礼を言うべきだろう。 「おはよう、みやび」  揺れる電車の乗客の隙間を縫うようにして、みやびの立っているところまで行く。 「同じ電車に乗るなら、そう言ってよね」  突然声を掛けられて、みやびは少し目を大きくした。 「え、いつ言えば」  というか、言う必要があったのだろうか。 「クッキー、食べた?」 「ああ、旨かったよ。わざわざありがとう」 「べ、別にわざわざとかじゃないんだからねっ。ついでよ、ついで」  何のついでなのだろう? 「ついでに、手紙も書いてくれた?」 「そう、ついでなの。勘違いしないで」 「なんの、勘違い?」 「なんでもいいけど」  みやびはツンと僕から顔をそらし、また窓の外の景色を見た。特に面白くもない景色が流れてゆくだけなのに、なんでそんなに外を見るのだろう。僕と一緒にいるのがつまらないのかもしれない、と思いそこから離れようとした。 「どこ行くのよ。ここにいて」 「えっ」  どきりとした。甘えるような口調ではないが、僕がいなくなることに対して不満を抱いているのはわかった。 「痴漢対策。オジサンでも、傍にいたら少しは役に立つでしょ」  オジサン、なんて僕のことを呼んで、みやびはくすりと笑った。その笑顔が小悪魔的で、僕はまたどきりとした。  そりゃみやびからしたらオジサンかもしれない。わかってるけど名前は呼んでもらえないらしい。そもそもみやびは僕の名前を知っているのだろうか。 「宮田さんでしょ」 「あ、知ってたんだ」 「みやびと似てるから、忘れない。お揃いね」  みやびはまたツンと顔をそらしたが、何故か耳が少し赤かった。
/15ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加