今からスイッチの話をします

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 そして、こんな話もあるよ、とまた人差し指を立てる。 「クリスマスのイルミネーションを見に、とある家族が出かけたの。煌びやかな街に、大勢の人々が集まってはしゃいでいた。だけどどうしてだか、末っ子の女の子だけはつまらなそうにしていたんだ」  トイレを我慢しているわけじゃないよ、とエレン先生は付け足した。 「せっかくみんなでお出かけしてるのにつまらなそうにする女の子に、お父さんは少し怒ったの。もっと楽しみなさい、家族皆に失礼だぞそんな顔、今日はクリスマスなのにって。それでも女の子の顔は晴れない。しばらく歩くうちに、靴紐がほどけそうなった女の子の靴に気付いたお父さんは、結び直そうとしゃがんだよ」  そしたらね、と肩を上げた。 「女の子の背の高さからの景色に、イルミネーションなんてなかったの。見えるのは大勢の大人の太い足と、行き交う人々のコートだけ。木々の装飾も、ショーウィンドウの中のトナカイも、何も見えなかったんだ」  その瞬間、お父さんのスイッチが押されたよ、と指をはじく。 「お父さんは女の子を抱っこして、自分の目線の景色を見せてあげたんだ。女の子はその途端に笑顔になった。さっきまで怒ってた父とつまらなそうにしていた子。お父さんのスイッチが押されたことで、女の子のスイッチも押されたんだ。つまらない、から真逆の楽しいに変わった。お父さんは気付かなくてごめんねって伝えたよ。女の子はありがとうって言った。怒りも不機嫌も、もうどこかにいっちゃったね」  児童たちは、ほうほうとスイッチの意味を理解した。
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