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シャワーを浴びてさっぱりした洋兄ちゃんは私の作った夜食を食べ始めた。
「疲れて帰ってきて夜食があるなんて天国だよ。ありがとう。しかもこれ美味しいな。味もしっかり付いているし」
ふふふ
そうでしょ、そうでしょ。
洋兄ちゃんの食の好みは長年の付き合いでバッチリなんだから。
「ね、明日も帰りが遅くなりそう?」
「いや、たぶん大丈夫だろ」
「よかった。じゃ、ちょっと相談にのってね」
「もしかしてどうするか決めた?」
「決めたっていうかね。うーん、まぁそれも明日話すよ」
こんな深夜にゆっくり話せる内容じゃないし。
それより、今夜のうちに報告おかないといけないのは周布先生の事。
「それとね、今日、周布先生に会ったんだ」
何でもない風を装って話す。
洋兄ちゃんの箸が止まり、私の顔を見つめる。
「会ったって、まさか会う約束でもしてたのか?」
「ううん。木村さんの送別会をやったお店を出た所であっちが待ってた」
「待ち伏せ?」眉をひそめて怖い顔をするから、慌てた。誤解されたら困る。
「私が横浜に来るのを小耳に挟んだみたいで。会って謝りたかったんだって。わたしがずっと避けてたから今まで会えなかったって言ってた」
「話したのか?」
「ゆっくりって程じゃないけど、話しはしたよ。あれから全く連絡取って無かったしね」
「それは志織が納得できる話だった?」
納得?
納得ではないかな。でも謝罪はあった。香取先生がどうなったのかもわからない。
あと、『戻って来て欲しい』って言われたなんて、洋兄ちゃんには絶対に秘密だ。
「志織」
私がすぐに返事をしなかった事で洋兄ちゃんの顔は更に険しくなっていた。
「んー、謝罪があったよ。今更だってキレちゃった。でもまぁ、スッキリしたかな。ごめんね。心配かけて」
洋兄ちゃんは鋭いから、私が何か隠してることに気が付いているかもしれない。
だから、ちょっとはぐらかそう。
猫耳と顔が付いたフードをかぶり洋兄ちゃんの顔を下からのぞき込むようにした。
「スッキリしたから大丈夫にゃん」
「しおり。それ反則」
驚いた顔をして身体をビクッとさせたのに、えへへと笑う私の頬をぶにっと引っ張った。
「いたぁー」
ひどいと洋兄ちゃんを恨みがましい目で見ると、
「そんな技を志織に教えたのは姉さんだな」
と何とも不機嫌そうな顔をした。
「洋兄ちゃん」
かぶっていたフードを外して洋兄ちゃんの顔を見る。
「あのね、今日私は周布先生に言いたい事言ってきた。恨み辛みとか。だからもう平気。ふざけてごめんね」
ぺこりと頭を下げた。
「そうか」
そう言うとやっと少し笑ってくれた。
「志織、お茶のお代わりくれる?」
「はぁい」
私はお茶のお代わりを入れに立った。
こんな風に落ち着いて過ごせるようになったのは洋兄ちゃんのおかげだ。
周布先生と再会しても予想より動揺しなかった。
それよりも、洋兄ちゃんと二人でこんな風に同じ時間を過ごせることが嬉しい。
お茶を淹れながらうふふと笑う私を洋兄ちゃんは
「夜中に白猫が不気味に笑いながらお茶を淹れてる。怪しすぎる。今どきの化け猫ってこんななのかな」
と笑った。
静かに夜が更けていく。
穏やかな洋兄ちゃんと私の時間。
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