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002(浮気)
アキはリュウを見てモジモジしている。手には見覚えのある紙袋が。リュウから切り出した。
「その紙袋の中身はパンかな?」
「あ、はい。これつまらない物ですが、どうぞ」
アキはリュウに紙袋を手渡す。
「ありがと。俺はここのマンションの大家もやってるから、困った事があったら何でも言ってね」
「ありがとうございます。それでは」
アキは下の階に挨拶に行く途中。
「何で袋の中がパンだって判ったんやろ? エスパー?」
ーーリュウは紙袋を持ってリビングに戻る。ヤコはチョココロネのチョコを垂らさないように下からチューチュー吸っていた。
「何やってんの?」
「ふんがふっふ。じゃがバターパンでチョココロネが温まっちゃったからチョコが溶けてるのよ」
「なるほど。はい、パンの追加」
「お隣さんもあそこのパン屋さんのパンを持ってきたの?」
「みたいだね」
「もう食べられないよ~」
「じゃあ俺の夕飯にするよ」
「あ!」
「何? ビックリするじゃん」
「そろそろ出勤しないと」
「そうか。送ってこうか?」
「お客さんに見つかると色々厄介だから気持ちだけでいい。お邪魔しました~」
ヤコは職場へタクシーで向かった。ヤコの仕事はウォータービジネス。〝クラブトロピカルスイーツ〟に所属するキャバクラ嬢だ。源氏名はミロク。売り上げは店ナンバーワン。できる女だ。
リュウとヤコが出合ったのは高校生の時だ。同じクラスになり、仲は良かったが付き合うほどではなかった。2年生の途中でヤコは親の都合で引っ越すことになった。そして成人式で再会して成り行きで付き合い、1年が経つ。
ピンポーン。またリュウの部屋のインターホンが鳴った。
「はいどちら様?」
『俺だ』
「父さん? どうしたの、急に」
リュウはドアを開ける。父親は神妙な面持ちをしていた。
「リュウ。聞いてくれ」
「何だよ、改まって」
「母さんに浮気がバレた。助けてくれ」
「またかよ、懲りねえな」
「誘惑してくるキャバクラが悪い」
「ヤコの店じゃないだろうな?」
「ヤコちゃんの店じゃない。〝クラブ先祖帰り〟っていうキャバクラだ。アフターで女の子とお茶してるところで母さんとばったりだ」
「ナード……。俺は具体的に何をすればいいの? 両親の仲を取り持つ?」
「取り敢えず、5万円貸してくれ」
「はぁっ? 何に遣うの? 母さんに詫びの品でも買うのか?」
「パチンコでほとぼりが冷めるのを待つ」
「おいおい本気か?」
「頼む! リュウ!」
「仕方ねえな。ちょっと待ってろ」
リュウはリビングに行き、財布から1万円札を5枚出す。そして玄関に戻る。
「渋沢栄一5人。ちゃんと返せよ」
「ありがとう。いつも助かるよ」
「ったく。次はないからな」
リュウの父親はパチンコ店へと吸い込まれていった。渋沢栄一5人も吸い込まれていった。
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