アフターコロナ ショートショート

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 性別、国籍、信条、肌の色、あらゆる差別を乗り越えてきた人類であったが、彼らが乗り越えられなかったものがある。  コロナワクチンを接種するか、しないか。  人類はこの問題で二分されてしまった。ワクチンを打たない自由を叫ぶ者たちは自らをレジスタンスと名乗り、ワクチンからの開放のために集団接種会場を爆破するなど、力によってワクチン排除を押し進めるまでに過激化していた。  ただし、レジスタンス軍は劣勢であった。ワクチン接種軍100に対してレジスタンス軍は10にも満たないマイノリティである。レジスタンス軍の敗戦は濃厚であったし、ワクチン否定派であるだけで家族は周りから差別を受けていた。時には強制連行され、無理矢理ワクチンを体内に注入されるという事件も起きており、ワクチン軍への憎悪は増すものの勝機は全く見えない。  ある日、湿った空気が流れるレジスタンス軍本部に一筋の光が差し込む。その光はレジスタンス軍に全面協力すると表明した。彼らは、消えかけていたレジスタンスの火を再び灯すと戦況を一変させた。  その存在の名を自然免疫獲得軍と言う。彼らの登場により戦況は拮抗するまでになった。そして、戦争は始まってから100年後に終結するという、人類始まって以来の一大戦争に発展した。  100年後、終戦の日。世界で何が起きたか。  終戦は何を意味したか。  それは、世界からコロナが消えたことを意味していた。人類は打ち勝ったのだ。コロナという悪魔からも、差別という人間の醜態からも。  100年という歴史の中で、レジスタンス軍は自然免疫獲得軍と交配を進め全員がコロナウイルスに対する耐性を得ていた。 *  これが人類が200年前に歩んだ歴史の一部である。教壇に立つ背広が言葉を発すると、プロジェクターの光が消え、遮光カーテンが開く。外には青空が広がっていた。  今日の平和は過去の過ちの上に立っている。 ---アベノマ・スクー
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