20211002_宝

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20211002_宝

「これあげる。ぼくのの宝物」  そう言って差し出されたのはピカピカのどんぐり。目の前の男の子は生真面目な顔だ。 「ありがとう」  どんぐりを受け取ると、その子は嬉しそうに顔をこすった。でも宝物をもらいっぱなしでいいのかな。わたしもお返しをしたいけどなにも持っていない。 「ごめんね、お返しできないの」 「いいよ。ぼくがあげたかっただけだもの」  わたしもキミによろこんでもらいたいのに。ポケットに手を入れるとなにかに触れる。わたしはポケットから小さな指輪を取り出した。 「これね、幼稚園で作ったの。あげる」  二十年後。どんぐりと紙の指輪を控え室に置いて新郎新婦が入場する。二人の宝物は、誰もいない部屋で並んでいた。
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