1.クラッシュ

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    「俺、このままじゃ浮気すっからな!」  何ギレか? そもそも僕らは付き合っちゃいないし。  なんだか変な成行きでレポート提出はなんとかなった。これはリッキーに感謝すべきことなのか? それとも、対価は前払いしただろう! と言っていいことなのか?  あの後、慌ててバイト先に駆け込んだらマスターに『どうした?』という顔をされた。 「君の代りなら来てるよ」  先の方にオーダーを取ってるリッキーがいる。こっちに向かって歩きながら僕に気づいて近寄ってきた。 「よぉ、バイトなら心配ねぇぞ。いいからレポートやれって。さぁ、帰った帰った」  そう背中を押されてカフェのドアから押し出された。複雑な思いを抱えながら時間の無い僕は部屋に戻った。  提出期限当日の午後。頭を抱えてる僕。かかってきた電話の向こうでエウシュロフネ・トゥキディデス教授はこう仰った。 『貴方のラップトップがクラッシュしたそうね。日頃お手入れしてるのかしら? 本来なら言い訳にもならないことだけれど、特別に5日間待ってあげます。6日後の朝8時に持ってらっしゃい』  一応、その夕方帰って来たリッキーにそれを言った。礼を言うのも癪だから単なる報告。 「え? 8時提出? なんなら朝引き止めとこうか? 前の晩からエシュー、一緒だから」  一瞬黙る僕。 「なんだ、ヤキモチか? 大丈夫だ、彼女とは遊びだから。向こうも承知してる」 ――ナニ ヲ イッテルンダ、コノ オトコ ハ? 「月曜はノラ、火曜はテッド、水曜はロイ。木曜から金曜はエシュー。土曜は空けられそうなんだ。ソーヤーは実家に帰って家業を継ぐらしいからな」 ――スケジュールが出来てる…… 「日曜ははなっから入れてねぇ、いつかお前と…… そう思ってたからさ。他のも徐々に整理してくからちょっと時間くれな」 ――なんの…… 時間だって? 「ちょ、ちょっと待てよ! 確かにレポートのことは助かったよ、バイトも。卑怯なやり方だとは思うけど留年は避けられたし。でもなんでリッキーと付き合う前提で話進んでだよ!」 「そりゃねぇだろ! 映画館でのお前、すんげぇ蕩けるような色っぽい顔してたぜ」 ――黒歴史だ…… ――とびっきり真っ黒な、闇の、世界の終りの黒歴史…… 「あれは単なる生理現象だ!」 「じゃ、また俺たち生理現象起こそうぜ」  なんで目が輝いてんだよ!  ふと彼の言葉に引っかかった。 「ちょっと待て、さっき変なこと言ったよな。ロイ? ロイ・スタンレー?」 「ああ、そうだよ。やつにはいろいろ世話になるからな。結構可愛いし」 僕はすごく複雑な顔をしていたに違いない。 「どうした?」 「いや、あの…… びっくりしたんだよ、知ってるやつがリッキーと…… その……」  そりゃ、驚くさ! あの何でも屋。損得だけで動いてんじゃないか? たまにそう思う、それでもちっとはいいヤツ。これでも友人だと認識はしあってるロイ。それがリッキーと? 「そうか、お前もあいつの世話になってんのか。言っとくよ、お前から金取んなって」 「よ、余計なこと言うなよ! 変なこと、誤解されたくない!」 「余計なことは言わねぇ。映画館のことは俺とお前との秘密だ。共有する秘密があるっていいもんだな」  なぜかとろりとした目をしてるリッキー……  ハッと、目を逸らした。 「リッキー、一週間全部予定入れても構わないから! その中に僕を入れないでくれ!」 「そんなこと言って、俺、このままじゃ浮気すっからな!」  
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