67人が本棚に入れています
本棚に追加
/112ページ
「俺、このままじゃ浮気すっからな!」
何ギレか? そもそも僕らは付き合っちゃいないし。
なんだか変な成行きでレポート提出はなんとかなった。これはリッキーに感謝すべきことなのか? それとも、対価は前払いしただろう! と言っていいことなのか?
あの後、慌ててバイト先に駆け込んだらマスターに『どうした?』という顔をされた。
「君の代りなら来てるよ」
先の方にオーダーを取ってるリッキーがいる。こっちに向かって歩きながら僕に気づいて近寄ってきた。
「よぉ、バイトなら心配ねぇぞ。いいからレポートやれって。さぁ、帰った帰った」
そう背中を押されてカフェのドアから押し出された。複雑な思いを抱えながら時間の無い僕は部屋に戻った。
提出期限当日の午後。頭を抱えてる僕。かかってきた電話の向こうでエウシュロフネ・トゥキディデス教授はこう仰った。
『貴方のラップトップがクラッシュしたそうね。日頃お手入れしてるのかしら? 本来なら言い訳にもならないことだけれど、特別に5日間待ってあげます。6日後の朝8時に持ってらっしゃい』
一応、その夕方帰って来たリッキーにそれを言った。礼を言うのも癪だから単なる報告。
「え? 8時提出? なんなら朝引き止めとこうか? 前の晩からエシュー、一緒だから」
一瞬黙る僕。
「なんだ、ヤキモチか? 大丈夫だ、彼女とは遊びだから。向こうも承知してる」
――ナニ ヲ イッテルンダ、コノ オトコ ハ?
「月曜はノラ、火曜はテッド、水曜はロイ。木曜から金曜はエシュー。土曜は空けられそうなんだ。ソーヤーは実家に帰って家業を継ぐらしいからな」
――スケジュールが出来てる……
「日曜ははなっから入れてねぇ、いつかお前と…… そう思ってたからさ。他のも徐々に整理してくからちょっと時間くれな」
――なんの…… 時間だって?
「ちょ、ちょっと待てよ! 確かにレポートのことは助かったよ、バイトも。卑怯なやり方だとは思うけど留年は避けられたし。でもなんでリッキーと付き合う前提で話進んでだよ!」
「そりゃねぇだろ! 映画館でのお前、すんげぇ蕩けるような色っぽい顔してたぜ」
――黒歴史だ……
――とびっきり真っ黒な、闇の、世界の終りの黒歴史……
「あれは単なる生理現象だ!」
「じゃ、また俺たち生理現象起こそうぜ」
なんで目が輝いてんだよ!
ふと彼の言葉に引っかかった。
「ちょっと待て、さっき変なこと言ったよな。ロイ? ロイ・スタンレー?」
「ああ、そうだよ。やつにはいろいろ世話になるからな。結構可愛いし」
僕はすごく複雑な顔をしていたに違いない。
「どうした?」
「いや、あの…… びっくりしたんだよ、知ってるやつがリッキーと…… その……」
そりゃ、驚くさ! あの何でも屋。損得だけで動いてんじゃないか? たまにそう思う、それでもちっとはいいヤツ。これでも友人だと認識はしあってるロイ。それがリッキーと?
「そうか、お前もあいつの世話になってんのか。言っとくよ、お前から金取んなって」
「よ、余計なこと言うなよ! 変なこと、誤解されたくない!」
「余計なことは言わねぇ。映画館のことは俺とお前との秘密だ。共有する秘密があるっていいもんだな」
なぜかとろりとした目をしてるリッキー……
ハッと、目を逸らした。
「リッキー、一週間全部予定入れても構わないから! その中に僕を入れないでくれ!」
「そんなこと言って、俺、このままじゃ浮気すっからな!」
最初のコメントを投稿しよう!