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王子
王子の教育方針は彼が赤子のうちにかなり紛糾していた。
彼が恋に落ちることの無いよう、冷徹に育てるべきか、それとも彼が恋に落ちる相手が想いを返せるように愛情深く育てるか。
どちらが正しいのかは誰にも分からなかった。
けれど、彼が三歳の時、弟が生まれたことで状況は変わった。
彼にもしものことがあっても、この国は弟君が治めればいい。
それは誰の目にも明らかだった。
魔法使いと王子の両方を殺してしまおうという意見もあったらしいが、その時呪いがどうなってしまうかが分からなかった。
それに隣国がまた王国に戦争を仕掛けてきそうなのだ。
二人を殺して迷いの森がどうなるか分からない事が二人を守っていた。
夜露を除いてこの国であれほど大きな魔法を使える者はもういなかった。
* * *
「王子。北の塔には近づいてはなりません」
そう何度も、何度もいい付けられると逆に気になってしまう。
そこに危ない物があるという訳でもなさそうな上、そこは元々図書室として使われていて本が沢山あるらしい。
危ないのであれば諦めるが、そうでないのであれば少しくらいいいじゃないか。
王子は、その幼さゆえ、そう考えた。
誰にも気が付かれずそっと行って本を少しだけ読んで、また元のところに戻しておけば誰にもわからないだろう。
決行の日は、弟の四歳の誕生パーティの日に決めた。
そういう行事に野茨は参加させてはもらえなかった。
その日は父も母も城のものは皆その行事で忙しい。
誰も野茨の事も塔の事も頭にないだろう。
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