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呪いの形
邪悪な魔法使いを死刑にすると聞いた。
明朝、塔から処刑場に移されるらしい。
観念したのか魔法使いは抵抗する様子も見せないと聞いた。
それまでに彼に彼に会わなければならない気がした。
王の政に口を出す立場ではない。
けれど……。
その日の夜は警護が厳しくて部屋を抜け出すことができなかった。
翌朝。
朝というにはまだ早い時間だ。
空が白むまでにもまだ少しだけ時間がある。
窓から部屋を抜け出した野茨は物々しい集団と出くわしてしまう。
父と大臣とそれから屈強な騎士。それらに引きずられる様にあるく夜露。
その集団に食って掛かるように叫ぶ紅玉と呼ばれる魔法使いがいた。
早朝だと言っていたが予定が早まったらしい。
「夜露!!」
思わず名前を呼んで駆け寄ってしまう。
「陛下!これは間違っております!」
紅玉は叫ぶ。
「この魔法使いは救国の英雄です。
戦争からこの国を救ったのは彼です。
今でも迷いの森はこの国を救い続けております!」
王様が歯ぎしりをするように歯を食いしばる。
そんな風にする父を見るのは野茨には初めてだった。
「その英雄に、褒賞を惜しんだのは陛下です!
対価のない魔法は必ず願いを叶えたかったものに返ります!
彼にはどうしようもない事でした!」
紅玉の叫びでようやく野茨はことの次第を悟る。
優しい、優しい魔法使い。
自分を陥れた国を引き継ぐべき人間にその事実を伝えることすらできない、優しい夜露。
その優しさも、黒い瞳も、控えめに笑う顔も、本を読むときのページをめくる指も、初めて自分を見た時にくしゃくしゃに歪めた顔も、何もかもが自分のものだと思った。
すべて野茨のものにしたいと思った。
彼の抱えるものであればすべてが欲しいと思った。
それこそ、呪いだろうがなんだろうが。
「ああ、そういうことか。
……俺に呪いをくれてありがとう」
野茨は夜露に向かってそう言う。
それから、野茨が夜露に顔を近づけて耳元で囁く。
「君の呪いで時が止まってしまうなら本望だ」
野茨の瞳が自然に閉じる。
どこからあらわれたのか茨の蔓が、野茨を包む様に伸びる。
茨の棘が夜露にも刺さる。
夜露にも絡まるように伸びていく茨は、へたりこんだ夜露と倒れ込んだ野茨を囲むように成長してそして止まった。
ついに美しい、誰からも愛される王子への呪いが発動してしまったことをその場にいたすべての人が実感するのに時間はかからなかった。
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