恋した相手

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恋した相手

王子の呪いがついに現実のものとなってしまった。 それは城にいる人々だけでは無く、民に広く伝わってしまった。 けれど、王子が誰に恋をしたのかが分からなかった。 王子が倒れられたときは大層複雑な状況だったという。 そのせいか、王子が一体誰に恋をしたかが全くわからない。ということらしい。 王子は今も眠ったように時を止めている。 王子を救うのは単純だ。 王子が恋に落ちた人間が彼に本当の愛を告げればいい。 王子に微笑まれて嬉しくない人間なんてこの国にはいなかった。 誰だかが分からなくても王子が目を覚ますのは簡単じゃないか。 最初にそう思った人間は多かった。 けれど、どうも上手くいかないらしい。 * * * 「なんでこの蔓、あなたからも離れないのよ!」 紅玉が蔓を引っ張りながら言う。 「君の魔法がなにか性質が変化したんじゃないかい?」 夜露は涙を浮かべながら答える。 茨は王子を守る様に取り囲まれているので王子の体は無事だが、夜露の体は棘に貫かれて血が流れている。 夜露は魔法使いだ。 別にこの程度のことで死にはしないが痛いものは痛い。 いっそのこと夜露を切り刻んで王子から引き離す案も出たが、「呪いが発動してしまった以上、それの引き金になった魔法使いを殺すのは王子が危険になる」と紅玉が強硬に反対したためそのままになっている。 王子が最後に言った言葉が夜露の頭の中で何回も反響している。 彼がなぜあんなことを言ったのか、意味が分からなかった。 恨まれるならまだ理解できるけれど、本望だなんて意味のわからないことを言われるとは思わなかった。 王様達は慌てて、王子とあったことのある年頃の令嬢を集めて、一人ひとり王子の前で愛の告白をさせていた。 令嬢達は頬を染めながら王子に愛を伝える。 王子のまぶたは開かない。 茨もただそのままだ。 令嬢達は嫌悪感のこもった目でチラリと夜露を見る。 当たり前のことなのだろうが、そのせいで夜露の胃のあたりがキリキリと痛む。
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