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王子と魔法使い
「これで、私の肩の荷もおりました」
紅玉が二人を見て言う。
「私が、あなたに提案を求めなければ、呪いという結果にはならなかったから」
ずっと、ずっとあなたには申し訳ないと思っていました。
紅玉が夜露に言う。
「王子の呪いはとけました。
けれど、呪いは二人の体の奥底に絆という形で残っています」
それは、長い年月をかけて少しずつとけていくものだろう。
けれど、もし夜露が誰かに害されることがあれば呪いはまたこの王国にふりかかる。
「魔法使いさま、わかっております」
野茨は頼もしい若者の笑顔を浮かべて答えた。
* * *
迷いの森の奥に、とある魔法使いが住んでいるという話がある。
その魔法使いは昔は嫌われもので、けれど心の美しい王子に救ってもらった魔法使いは二人で迷いの森で暮らしているらしい。
「本当に王都にお戻りにならなくていいのですか?」
「国には弟がいるし、魔法使い達もよく働いてくれている。
俺はここで国を救ってくれた魔法使いと迷いの森の管理をする。完璧だろう?」
野茨はそう言いながら、夜露に笑いかける。
城に幽閉される必要がなくなった夜露は逃げるように王都を離れた。
そこに野茨はすべてを捨ててついてきてしまった。
「別にほしい物はすべて手に入っているよ」
祝福されて生きているんだ。
富だってなんだって欲しければ手に入るのは君ならよく知ってるだろう?
野茨が夜露に言う。
「野茨は、本当に優しい」
こんな辺境で暮らしたいと願う夜露に合わせてくれる恋人に夜露は感謝していた。
「優しすぎるのは夜露だろう?」
魔法を使って、仕返しをしたかったらいくらでもできる。
本来もらえるはずだった対価だって望んでいい立場のはずなのに夜露はなにも求めない。
ただ、元通りの静かな生活だけを彼は望んだ。
この優しい魔法使いの幸せだけを野茨は願いたいのだ。
彼が望むものが地位でも富でも無いのであれば彼の望んだ生活がおくれる場所に共にいたかった。
城はおそらく、夜露にとって辛い記憶も多いだろう。
だから、この人里離れた場所での生活は野茨にとっても願っているものだった。
「さて、今日は小川の方に薬草を取りに行こうか」
野茨が夜露に言う。
「一緒に木苺も採ってきてジャムにしましょうか」
夜露が答える。
「やっぱり夜露は優しい」
「そんなことを言うのは野茨だけですよ」
二人は笑い合った。
「魔法使いは幸せに暮らしましたとさってならないとね」
野茨が夜露に言う。
「それならもう――」
夜露の言葉は最後まで言えなかった。
野茨が夜露の唇を自分のそれで塞いでしまったからだ。
この二人に呪いがふりかかることは二度と無いだろう。
二人はそれからも、幸せに幸せに暮らしました。
了
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