嫌われ者の魔法使い

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「あなたなら、可能じゃないの?」 紅玉と呼ばれる魔法使いが夜露に聞く。 そんな沢山の人を殺そうと思ったことは夜露には無かった。 それに夜露はよく知らない隣国の人々を殺したいとは思わなかった。 いっそ、自分の様に一人で遠くに暮らしていれば。 夜露はそう考えてた次の瞬間、あるアイデアが思い浮かんだ。 「王様、本当に戦争以外の道はないのでしょうか?」 夜露が聞く。 「隣国は、剣を大量に購入し、戦士の育成も半ば完了しているという。 それに兵站にするのであろう食料がどんどんと運ばれていると聞く」 もう戦争が始まるのは時間の問題なのだ。 王様は悲しそうに言う。 「それであれば――」 夜露は浮かんだアイデアを王様に伝えた。 彼のアイデアはこの国の国境付近のすべてに道に迷う魔法をかけることだった。 どんなに沢山の兵士も、どんなに屈強な戦士も相手の国にたどり着けなくては戦うことができない。 迷いの魔法はとけるまでに長い年月を要するけれど、魔法のかけられた(ふだ)を持っていればそこを抜けることができる。 少々の不便は戦争よりはマシに思えた。 皆が口々にどうすべきなのかを囁く。 隣国と戦えるだけの蓄えも戦力もこの国には無かった。 「それは、お前にできることなのだな」 「対価をいただければ」 王に問われ夜露は答えた。 魔法には対価が必要だ。それがなければ魔法は魔法たり得なくなって呪いになってしまう。 「成功すれば、その対価は望むままに与えよう。 宝石か!領地か!」 チラリと王様は夜露をみて、「令嬢との結婚か!」という言葉を飲み込む。 夜露は褒美に興味はなかった。ただ魔法には対価が必要なだけだった。 「それでは宝石を」 魔法の対価を後払いする方法はいくつかある。 対価は別に後でもかまわなかった。 大規模な魔法を発動させることも夜露にはできた。 この世界にいる魔法使いの中でも夜露はとても強い力があった。 けれど、夜露はその事実にさほど興味がない。 「それでは、必ず約束をお果たしください」 夜露はそう言うと彼を中心として同心円状に魔法陣が浮かび上がった。 他の魔法使いはその力のあまりの強大さに驚いて目を見開いた。 数十秒後、魔法陣は輝きを失う。 「魔法はなされました」 夜露は静かに王様に言った。
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