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王子の誕生と呪い
戦争が回避されてから数年後、お妃様が懐妊した。
国中がその事実を喜んだ。
ただ一人、夜露だけは日ごとに呪いに代わる魔法を抱えてそれどころではなかったけれど、それ以外のすべての民はその事実を喜んだ。
勿論王様もとても喜んだ。
それから数か月後、王子様が生まれたと知らせられた。
金髪がまるで絹糸の様で瞳はエメラルド色をしたとても美しい赤子だ。
王様は王子の誕生を祝うパーティを盛大に執り行う事とした。
国中の貴族、それから賢者と呼ばれる魔法使いがパーティに呼ばれた。
その中に夜露はいなかった。
夜露が招待されていない事を不思議がるものも、異議を唱える者もだれもいなかった。
誰ももう夜露の事は覚えていなかった。ただ、嫌われ者の魔法使いが辺鄙な場所で一人で暮らしているという事だけを皆が知っていた。
嫌われ者の魔法使いをおめでたいパーティーに呼ぼうと思う者はいなかった。
* * *
パーティ当日。
会場はとても華やかで、招待された人すべてがめでたい事実に浮かれていた。
迷いの森は相変わらず人を迷わせるが、馬車に札を貼ることで問題なく貿易をおこなう事も出来たし、観光に行き来することもできた。
沢山の豪華な食事ときらびやかなドレス。
穏やかに微笑む貴族たち。
隣国が攻めてくる前と何も変わらなかった。
「それでは、私は富を」
魔法使いが一人歩み出て王子の前で呪文を唱える。
彼女の持っていた綺麗な髪の毛の束が一瞬で跡形もなく消える。
この国では王族が生まれると決まって魔法使いから“祝福”を受ける風習があった。
魔法使いが持ち寄った対価で、王子に簡単な魔法をかけていく。
少しでも賢く、美しく、豊かに。王族の素晴らしい未来を願って魔法をかけていく。
後数人、となったところで、突然パーティをしていた広間の灯りが落ちる。
数秒後灯りは元の通り灯ったけれど、そこにはその場に似つかわしくない男が立っていた。
いつも通りの黒いローブを被った魔法使い、夜露だった。
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