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「対価をお支払いに参りました」
夜露の顔には脂汗が滲んでいる。
対価を払えなかった魔法は完全に呪いになってしまった。
もうどうすることもできない
夜露自身にもどうすることもできなくなっていた。
呪いがどのようなものになるのか、魔法使いである夜露にも分からない。
夜露が呪いの種類を決めることもできない。
紅玉が青い顔をして夜露に話しかける。
「国王様は対価をお支払いくださららなかったの!?」
夜露が黙って少しだけ困ったような笑みを浮かべた。
それが答えだった。
夜露は今王子の生誕パーティーをしていることにも気が付いていない様子だった。
真っ暗な、闇の様にどす暗いものが夜露の体から流れ出る。
「ひっ……!」
お妃様の悲鳴が聞こえる。
「呪いは呪いとして、魔法を望んだものに返さねばなりません」
静かに、夜露は言う。
夜露は大きく息を吐いてそして二人で並ぶ王様とお妃様に言った。
その声は淡々としていて、誰もが夜露を恐ろしいと思ってしまった。
『この王子は初めて恋をした瞬間、彼の時は止まるでしょう』
声は夜露の少しだけ低い声とは別物の低い低い声だった。
「戯言を!」
と王様が言った。
魔法使いが進言した。
彼が言った事は本当です。
魔法は対価を払わないと呪いになって返ってくることを。
王様とお妃様は途方に暮れた。
どうしたらいいのかと魔法使い達を見回す。
紅玉が王子に歩み寄る。
そして、自分の指輪を外すと「魔法が変化してしまった呪いは、解くことはできません」と言った。
「夜露を恨んではいけません」
紅玉は王様にそう言った。
それからちらりと夜露を見た。
夜露はゼイゼイと大きな息をしたままへたり込んでいる。
「彼はここまで呪いが呪いとならないように抑え込んでくれました。
それに、普通であれば制御不可能な呪いがなるべく影響を与えないように努力してくれました」
「しかし!!」
王様は叫んだ。
こんなことになるはずではなかった。
嫌われ者の魔法使いは勝手に一人で呪いを抱えて死んでほしかった。
そう言いたげだった。
「彼に危害を加えてはいけません。
呪いが本来の形でもっと酷いものをまき散らすでしょう」
それでも、と紅玉は付け加える。
「呪いは魔法でそのものを解くことはできません」
けれど、それを少し捻じ曲げる事は出来ます。
そう、彼がしたみたいに。
紅玉は王子に向かって囁くように呪文を唱えた。
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