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塔には鍵もかかっていなかった。
野茨は恐る恐る塔の扉を開ける。
中は思ったよりも広く、本棚が所狭しと並んでいる。
見慣れない古代語で書かれた本も並んでいるようだった。
「わあ――」
野茨は思わず感嘆の声をあげる。
魔法使いの祝福のおかげか、彼が生来持っていた力なのか、野茨はとても賢い子供だった。
だから、ここに並ぶ本の価値がどれほどの物なのか野茨にはきちんとわかっていた。
子供だからここに入ってはいけないと言われたのだろうか。
それにしては外側の手入れがあまりにされていないように見えた。
本はきちんと手入れされているように見えた。
かちゃり、と金属質な音がした。
そこにいたのは一人の男、夜露だった。
夜露はまるで下男のような簡素な恰好をしている。
「ああ、君は……」
夜露は少しだけ苦しそうに目を細めた。
野茨はなぜこの人がこんな顔をするのか分からなかった。
「司書の方ですか?」
野茨が聞くと、夜露の顔がぐしゃぐしゃに歪む。
泣いてしまうかもと野茨は思った。
けれどその人は泣かなかった。
「いいや、違うよ」
夜露は首を振る。
「ここで本を少し読んで行ってもいい?」
目を離すと、この人が泣いてしまうかもしれない。
野茨はそう思って、聞いてしまう。
多分この人は自分を王子だと知っている。
顔を知らなくても身なりで分かるようにできている。
夜露は少し悩んだ後、「……すこしだけなら」と言った。
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