そっけない骨董屋

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  1  少年は昭和町三丁目さくらんぼ商店街をのんびり歩いていた。視線の先にはシャッターの降りている店がずらりと軒を並べている。商店街の中央にある喫茶店と魚屋を通り過ぎ、その三軒先にある骨董屋の前で立ち止まった。ガラスの窓越しに中を覗き込んでみると、店内はやけに暗く、店主の姿が見えるだけで、客の影も形もない。棚には汚れたままの陶器やら人形やらが雑然と置かれている。  行き交う人たちは、まるでそんな店など目に入らないとでもいうように、脇目もふらずに通り過ぎて行く。少年もまた去年の春に高校生になるまで、そこにこんな店があると気づかなかった。  少年が店に足を踏み入れると、椅子に座って本のようなものを読んでいた店主の男が顔を上げた。 「いらっしゃい」  若いのか年寄りなのか、年齢の見当の全くつかない顔立ちをした店主が声をかけてきた。何度も通っているはずなのに、にこりともしない。 「こんにちは」  少年もまた気のない返事をして、ぶらぶら店内を見回している。棚の上に並べるというより、雑然と積み上げたという風情の骨董品を見て回った。  ふと、通りとは反対側の壁にあった棚の上のものが目に入った。何とも奇妙な形のへんてこなものだった。顔を近づけてよく見ると、メビウスの輪がいくつも折り重なっているとしかいいようのない黒い物体。金属なのか、プラスチックなのか、はたまた木製なのか、それすらもわからなかった。思わず手に取ろうとすると、「あ、触らないで」と背後から声がかかった。 「買わないなら触らないでね」  店主はもう一度言った。 「これは何ですか?」  少年は興味しんしんに訊いてみた。 「永久機関だよ」 「何ですか、その、ナントカって……」  店主は呆れ顔でため息をつく。 「最近の高校生はそれくらいのことも知らないのかい? それはね、永続的に運動を続ける装置なのさ。外界に仕事をするばかりで、しかも外界に何の変化も残さない代物だよ」  少年は自身の知識のなさに恥ずかしさを覚えた。もしかすると、理科の授業で聞いたことがあるのもしれないが、やっぱり何のことやらさっぱりわからない。「はあ」と言って、もう一度黒い物体を見た。 「それにしても」  少年は店主を見ずに言った。 「ずいぶん高いんですね。これが二万円って、とてもじゃないですけど、高校生には手が出せませんよ。もう少しまかりませんか?」  値札には20000とある。 「まからないね」  店主の返事はそっけなかった。  しようがなく少年は財布の中身を確認した。一万円札が一枚と千円札三枚と小銭が少し。すぐに財布を閉じた。  背中に店主の視線が貼り付いている。 「ちなみにこれはどうやって使うものですか?」  それでも気を取り直して、振り向きざまに言うと、店主はこう答えた。 「その中には九つの玉が入っていて、それが高速で無限周回しているんだよ。それでね、そのエネルギーをうまく取り出せれば、電気なんか使い放題だと思ってもいいだろう。まあ確実とは言い難いが、それ一個でこの商店街の消費電力を賄えるはず――  そうだ! 少し聞いてもらえるかな。  この間の話だけど、うちの車のバッテリーに電源ケーブルを接続してみたのさ。ちょうどバッテリーが切れかかっていたから試しに使ってみたわけ。それで結局どうなったと思う?」  天井から裸電球がぶらさがっているだけの薄暗い店の中で、暗緑色の毛糸の帽子をかぶった店主が、口元にうっすらとした笑みを浮かべた。前歯が一本欠けている。 「バイクのバッテリーが充電された、あー、めでたしめでたし。じゃないんですか?」  少年がつまらなさそうに言うと、店主は首を振った。 「それが電源ケーブルを接続した瞬間にものすごい火花が飛び散ってね。配線の皮膜が溶け出すわ、バッテリーが燃えだすわ、もう散々な目にあったよ。どうやら内部から放出されるエネルギー量と外部の消費量が釣り合わないといけないのかもしれないね。覚えておいたほうがいいよ」 「そんな危なっかしいもの、ぼくは要りませんよ」 「まあ、そう言わずに。これはね、十万円の値で売りに出してもおかしくない代物だが、今日はさらに出血大サービス、値下げに応じようじゃないか。だから今すぐ買わないと後悔するよ」  店主の目の奥に怪しい光が宿った。すぐに少年は店主に向かって訝しむ視線を投げかける。 「……でも手元にはこれだけしかありませんよ」  少年は財布を拡げてきっぱり言い切ると、店主は腕を組み、しばらく考えて言った。 「いいだろう。きみはお得意様だし、特別に半額で譲ってあげるよ。ただし!」  店主は思い出したようにこう付け加えた。 「税別、だからね」  結局少年は棚においてある怪しい黒い物体を一万円(税別)で買うことにした。店主は代金を受け取ると、包むことなく、「そのまま持っていってくれ」という。言われたとおりに少年はそれを鷲づかみすると、学生服のポケットに押し込み、店主に顔を向けた。 「また来ます。今度はもう少し役に立ちそうなものをお願いしますね」  少年がそう言い残して薄暗い店を出ようと引き戸に手をかけたとき、奥からぼそぼそと陰気な声が聞こえてきた。 「両手で持たないように。死にたくなければね」  少年が振り返った先には大真面目な顔の店主がいた。人間の身体は伝導体だから万が一の場合を想定して、電気回路を形成しないようにとの忠告らしい。思わずテレビニュースで見た落雷の映像を頭に思い浮かべてしまい、背筋に冷たいものが走った。「はい」と返事をして、骨董屋を後にした。   2  少年は外に出て、さくらんぼ商店街をぶらぶら歩きながら家路についた。コンクリートブロックの通りですれ違う通行人の数は、彼の知る限り全盛期の半分程度だった。買い物客はさらにその半分かもしれない。大半のクラスメイトたちはここから二キロメートル離れた場所にある大型ショッピングセンターに足を運ぶという。商店街の組合長をしている父親もまた「時代の流れだな」と残念そうにこぼしつつも、時の流れとともに廃れていくさくらんぼ商店街に実効性のある手立てを講じることができなかった。  午後のものうい微風が商店街を駆け抜けた。どこからか新聞紙が流れてきて、少年の足元をすり抜けていく。ふと足を止めて、無意識に目で追いかけた。やがてそれは一軒の店先で止まった。三年前に廃業した電器屋のシャッターに引っかかったまま、あおられている。 「加藤くん、元気にしてるかな」  少年はつぶやき、そして一番仲良くしていた友人との思い出を頭に浮かべながらしばらく歩いていると、さくらんぼ商店街の終点を示す看板が見えてきた。   3  十字路の角を右に曲がり、踏切を超えて真っすぐ進むと、両側に似たような家が立ち並ぶ緩やかな勾配に差し掛かった。坂の上にはどこまでもつき抜ける秋空が広がっている。どこか遠くでカラスの鳴き声が風とともにやって来た。少年はあたりを見回し、固く舗装された道路をあと数分登りきれば家にたどり着くところで、足を止めた。 「カアタンおいで」  少年の視線は、電線に止まっている一羽のカラスに向けられていた。彼が左腕を真っすぐ前に突き出すと、カラスはバサッとばかでかい翼をひろげて、学生服の袖を目がけて旋回してくる。そして手首の近くにとまると、まがまがしい嘴を大きく開けて、「グワーッ」と啼いた。  カラスは丸太橋を渡るように少年の腕を伝って肩に乗った。少年は学生カバンを両足に挟み込み、上着のポケットから牛肉コロッケを取り出した。おやつにしようと商店街の肉屋で買っておいたやつだった。少し冷めてもホクホクして美味しいと評判のそれを紙袋からつまみ出し、黒い嘴の前に差し出すと、カラスは何のためらいもなくかじりついた。 「おいしいかい?」  少年の問いかけにカラスは何も答えない。代わりに一心不乱に食べ続けている。 「きみとおしゃべりができればいいんだけどね」  食べ終わったカラスは羽ばたくことなく、少年の肩の上で根を生やしたようにおとなしくとまっている。少年は手についたパン粉をズボンで払い落とし、また歩き出した。道路脇のポストに葉書を投函していた年配の女性が、目を丸くしているのがわかった。女性とすれ違い、通り過ぎてもまだ目送を受けているような気がして、少年は少しばかり優越感に浸っていた。   4  今日は土曜日で、父親も母親も出勤していた。がらんとした駐車場に目をやり、それから門扉を開いた。父親がまめに手入れをしている庭の芝生は、見事に青々としている。少年が腕を伸ばすと、カラスはすぐに黒い翼を広げて芝生に降り立った。小さなバッタでも見つけたのか、しきりに芝生の上をついばんでいた。  何気に二階の窓に目を向けた。サッシ窓の一枚が大きく開いているのを見て、閉め忘れかな、と思った。自分じゃなくても母親が掃除に入ってきて、開けっ放しの可能性もある。別に部屋を見られて困ることはないが、骨董屋で買った珍品にケチをつけられるのはいやだった。 「じゃあね、カアタン。またおいで」  少年がそう言って、玄関に向かおうとしたときだった。彼は信じられないものを見てしまった。手から学生カバンが離れ、足元に落ちる。カラスは嘴の動きを止めて、少年に一度目を向けてからその視線を追った。  少年がカラスをちら見したその一瞬に、そいつは窓から出てきたのだろう。少年とカラスは窓の外、といってもベランダとかではなく、空中に立っている男をその目で捉えていた。  男はシルクハットをかぶり、つやつやの燕尾服を着て、さながらマジックショーのステージに立つマジシャンに見えた。何も言わず、少年を見下ろし、いやに冷めた目をしている。  少年の顔がにわかに歪んだ。  男がマーブル模様のガラス玉を握っていたからだ。  骨董屋の店主も「正体不明」といって頭をかしげていた謎の物体。四六時中淡い光を放ち、常に表面の模様が変化する代物だった。 「すみません。それを返してもらえますか」  少年は宙に浮いている男に向かって手を差し出し、静かに言った。はじめ男の目にはなんの表情も浮かんでいなかったが、しだいにその奥に光が認められるようになった。 「おかしいな。なぜきみは動けるのかい?」男は言った。  それからポケットに手を突っ込み、銀色の鎖がついた懐中時計を取り出すと、しげしげと眺めて「なるほど」と、納得した表情を見せた。 「何のことだかわかりませんけど、とにかくそれを返してください。お願いします」 「それはできない」男は言い切った。そして、見えない階段を一段ずつ下りてきて、地に足をつける。足元の芝生は潰れていなかった。それから懐中時計をポケットに収めて、穏やかな口調で話を始めた。 「まず説明しよう。おれは向こう側の世界からやって来た当局の職員だよ。こちら側の世界に違法物件が持ち込まれているとの情報を得てね。こうして回収を進めているわけさ。これもその一つ。きみにはもうしわけないが、あきらめてほしい」  男はそう言って、空いているほうの手で指を鳴らした。  カラスは驚いて「グワーッ」と啼いた。  男は眉をひそめて言った。「どういうことだ? なぜ時間が止まらない……」  焦った表情で何度も指を鳴らしたが、何も起こらなかった。  少年は男のいうことを信じる気になれなかった。泥棒のくせに見え透いた嘘で煙に巻こうとしているのではないか。そう思って彼は少しずつ、男に気づかれない程度に距離を詰め始めた。  男はもう一度懐中時計を手に持って眺めた。そして首を振り、ポケットに手を突っ込む。顔を上げると、健康的に日焼けした少年が両手を突き出し、タックルしてくるのが目に入った。  手を抜き取り、男は進み出ると、少年の前腕をつかんでひねりあげた。少年は悲鳴をあげて倒れ、勢いよくひっくり返されて息がつまった。  男が少年の上にまたがった。シルクハットは少年を投げ飛ばした柔術の技でも、まったくずれていなかった。 「油断も隙もないな。しかしだね――仮にきみがこれを持っていたとしても何の意味もなさないのだよ。われわれとしてもこれが何なのか計りかねているのだから」  少年はぜいぜいし、息を整えようとした。「そんなこといって……ぼくを騙そうとしても……無駄だよ……あなたの言っていることは……荒唐無稽で……とても信じられない!」  男は少年を注意深く眺めた。 「おれがあまり怖くないようだな?」男が訊ねた。  少年は、男の目が嘘をついているようには見えないことに気づいた。「ええ、男子高校生は怖いものなしですから」  そう言って、うつ伏せになり、ヘビのように男の両足からすり抜けた。そのとき、硬いものが腹に当たっているのを感じ、それが何か思い出した。永久機関だ。男に投げ飛ばされたときも、学生服のポケットから落ちなかったらしい。  少年は寝返りを打ってポケットに素早く手を入れ、永久機関を取り出した。空に向かって投じると、きれいな放物線を描いて男に向かった。  男の目の色が変わった。「それは!」男は素早くガラス玉を上着のポケットに押し込み、両手を広げてすくい上げるように待ち受ける。   5  永久機関が男の掌に収まったとき、ドシンと音がした。大地が揺れて、男の周りを囲むように芝生が黒焦げになり、鼻をつく匂いがした。  その刹那、男の姿は跡形もなく消え失せていた。存在したことすら疑わしかった。  ただ……男が立っていた場所に、マーブル模様のガラス玉と、銀色の懐中時計と、黒い永久機関だけが残されていた。少年はほうけた顔をそれらに向けて、あぐらをかいている。 「ぼくのせい? ぼくがあの男の人を殺したっていうの?」  少年のそばにいたカラスが少し首を傾げて、「グワーッ」と啼いた。 「そんな……ぼくはこんなことを望んだわけじゃないのに。少しだけ懲らしめたかっただけなのに。これだって、あの人が頭を下げれば渡してもいいって思っていたんだ」少年は立ち上がり、落ちていたガラス玉を拾い上げた。 「ぼくは取り返しのつかないことをしてしまった。謝ってすむ話じゃないけど、ごめんなさい……」  少年の目から涙がこぼれ落ちてきた。そのしずくはガラス玉を濡らし、手に伝ってきた。カラスは少年の顔を見上げた。その上には黒い粒子が舞い上がっていた。まるで宙にこびりついた大量の煤のようなものだった。風が地面から空に向かって吹き抜けようとしたとき、あたりに光が満ちていった。  少年が目を閉じるのと同時にガラス玉から光の粒子が氾濫した。  カラスはばかでかい翼を広げたが、それだけだった。宙に漂う黒い粒子が収束し、カラスに向かってきた。やがてそれは、カラスの胴体に、翼に、嘴に溶け込むように吸い込まれていった。カラスは微動だにしない。黒い粒子が見えなくなると、ガラス玉の光が消えた。少年の目が開いたとき、青かったマーブル模様は黄色に変わっていた。少年は、「あっ」という声を上げた。  どこからか男の声が届いてきた。 「おれは死んだのか? いや、なんかおかしいぞ」  少年が見回しても周辺には誰もいない。存在するのは自分とカラスだけだった。 「生きているんですね。よかった……ところでどこにいるんですか?」少年は訊ねた。 「どこって……きみのすぐそばにいるだろう。見えないのかい?」  カラスが広げた羽をバサバサとあおいでいる。少年はおそるおそる口を開こうとしてやめた。お互いに一言も口をきいていないことに気づき、カラスを見つめた。涙はすでに止まっていた。 「もしかして、カアタンの中にいるんですか? ぼくの声が聞こえるのだったらバンザイしてみてください」 「カアタンとはきみのそばにいたカラスのことかね? ばかばかしい! なにをいっているんだ、きみは!」  慌てているように羽をばたつかせているカラスを見て、少年はテレパシーで会話をしていると確信した。それに感嘆符と疑問符をちゃんと感応し分けられることに、驚きを隠せなかった。 「とにかくご自分の手を見てください。それではっきりしますから」 「それじゃ笑い話になってしまう。ま、最後に『だめだこりゃ』っていうオチは嫌いではないがな」  少年が見ている前でカラスは、羽を何度も何度も上げたり下げたりしていたが、諦めたのか、それからおとなしくなった。しばらくして嘴を大きく開き、真っ黒な顔に縦線が何本も入っているような気配を見せた。 「……だめだこりゃ」   6  少年はカラスを肩に乗せて、さくらんぼ商店街に足を運んだ。道行く人たちにじろじろ見られても気にしない。途中、偶然通りかかったガールフレンドにしどろもどろになりながらもごまかせた以外は、問題なく骨董屋にたどり着くことができた。  骨董屋の店主は早々にシャッターを閉めて帰り支度をしていたが、少年はすがるように頼み込み、三人で薄暗い店内に入った。西陽がくもりガラスを透けて奥まで射し込んでいた。  少年は店主にすすめられて、極めて座りごこちの悪い椅子に腰掛け、ここに来た経緯の一部始終を説明した。 「なるほどなるほど、事情はわかった。それは災難としかいいようがない。しかしそれはわたしのせいじゃないからね。だから返品など一切受け付けないよ」  あいかわらず店主はそっけなかった。古い机に並べられたガラス玉、懐中時計、永久機関が寂しく見える。  カラスはやや興奮気味だった。 「きみ、こんな薄情な男に頭を下げる必要などない。どうせお金にしか興味を示さない哀れなやつなんだ。世の中にはこんな人間がいかに多いことか!」  店主の目に怒りの表情が浮かんだ。 「最近の若いやつは礼儀を知らんようだな。おまえさんこそ、人様にものを頼む態度じゃないようだが。こう見えてもわたしはね、かつて向こう側の世界の住人だった男だよ。一度や二度、こちら側の世界に足を踏み込んだからって大きな顔をしてもらっては困る!」 「えっ」少年とカラスの心の声がぴったり重なった。  今さらながら少年は、店主が一言も口をきいていないことに気づいた。テレパシーだ。カラスもそれに気づいたのか、つぶらな目が丸くなったみたいだった。 「こほん」店主が咳払いをした。「まあいいだろう。わたしも商人の端くれだ。お客さんが困っていたら相談ぐらい乗るものだ。しかしこれはとてもレアなケースだね。さて、どうしたらいいものか――そうだ! もう一度永久機関に触ってみるのはどうかね。うまくいけば元に戻れるかもしれないよ」  カラスは首を振った。「それは勘弁してください。あんな体験はもう二度とごめんです」 「そうかね。それは仕方がないことだ」  三人はしばらく口をつぐんだ。少年は机に並べた品物を眺めていたが、ふと疑問が湧いてきて、店主に問いかけた。 「あの、ここにある品物って、こっちの世界にないものばかりですよね? いったいどこから持ってきたんですか?」  店主とカラスは顔を見合わせる。 「工房だよ。向こう側の世界には腕のいい職人がたくさんいるからね。若いときはわたしもたくさん仕入れたもんさ。そうか! 次元移動だ。その永久機関をわたしの家にある次元転送装置に接続すれば、なんとか起動できるかもしれない。あれは大量の電気を使うからね。やってみる価値はあるだろう。もちろんきみにも協力してもらうよ」 「わかりました。ぼくが引き起こした災難ですからなんでもやりますよ」 「おれはあまりおすすめしないがね。規則に抵触するおそれがある」 「非常事態だ。片目をつぶるぐらいいじゃないか。おまえさんだって、そのままでいいのかい?」  カラスは暗黙の了解を示した。  途端に少年の胸が踊りだした。まだ見ぬ世界に飛び込む勇気を、彼は十分に持ち合わせていた。 「行きましょう!」少年は声高らかに言った。 (了)
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