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佐和ちゃんの背中を追いかけて一生懸命に走っていた。
僕は5才くらいだった。
山の中の草ぼうぼうの道。
「あっ・・・目に虫・・・入った」
僕は目に何かが入った気がして、そう言った。
「こすっちゃダメ!どれ・・・見てあげる」
佐和ちゃんは僕の目を覗いた。
佐和ちゃんは目を大きく見開いて、僕の両肩を両手でしっかり押さえ、ささやくような声で言った。
「令ちゃん たいへん 小さい小さい蟻よりもっと小さい小人のお爺さんが目の中に入ってる」
「えっ?!」
「しーーーーっ 静かに お爺さんを怒らせたら目が見えなくなっちゃうかもしれないよ 絶対に動かないで 目を閉じちゃダメ まばたきしないで我慢できるかな?」
「できないよぉ・・・・ぅわ~ん・・・」
僕は目を大きく開いたまま大声で泣いた。
「泣いちゃダメ お爺さんが怒っちゃう」
「怖いよぅ~ 怖いよぅ~ 佐和ちゃん お爺さん とってぇ」
「きゃあ お爺さん 真っ赤になって怒り出した!」
「ええええっ・・・怖い 怖い 佐和ちゃん 怖いよぅ」
「あ・・・お爺さん・・・涙で流れた」
「ほんと?」
「ほら・・」
「あ・・・虫じゃん」
「あははは よかったね 令ちゃん 虫 出てきて・・・涙で流すのが一番いいかなと思ったから・・・」
「ひどいよ 佐和ちゃん 僕 怖かったょ もう ヘンなこと言わないで ホントにお爺さんだと思ったんだから・・」
佐和ちゃんは、優しくて気が利いて、面白くて、頼りになる、隣のお姉ちゃんだった。
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