13人が本棚に入れています
本棚に追加
Opening
「はぁはぁはぁはぁ――」
少女は走る。走る、走る。暗い闇の中をひたすらに。
歳は十歳前後。黒いロングヘアに白いワンピース。その上から赤いカーディガン。首からは小さなドリームキャッチャーをつけている。
少女は追われていた。捕まれば命は無い者に。
やがて、闇に終わりが見えようとしていた。走る先に"外”の、"夜”の景色が見え始めていたからだ。
"外”だ――!!
一刻も早く、この"塔”から出なくては――
そして、"外”に飛び出した瞬間、
「そこまでよ」
その底冷えするような声が聞こえた。
少女は目を疑った。
少女は囲まれていた。
彼女を囲むのは何十体もの異形の人間達だ。服を着ていない人間達。しかし、その外見は骨の中に筋肉があるグロテスクな容貌だった。
そして、それを囲む異形たちの群れの中央にその人物はいた。
妙齢の美女だ。胸元が大きく開かれた夜色のロングドレス。髪の長さは腰どころか足下まで伸びており、その髪の間から覗く顔は美しく、しかし、圧倒的なまでの邪悪さを含んだ、暗く、陰鬱としたものだった。
「お母様・・・」
"お母様”と呼ばれた女性がはぁ・・・とため息をついた。
「・・・ドリーム、はやく部屋に戻りなさい」
ドリームと呼ばれた少女はいやいやと首を振った。
「戻りませ~ん、絶対に嫌ですぅ~」
この場の緊張感をぶち壊すような間の抜けた喋り方だった。
"お母様”は再度、はぁ・・・とため息をつく。
「仕方が無いわね。グロテスク。ドリームを捕まえて頂戴」
その命に、グロテスクと呼ばれた異形の人間達はじりじりとドリームに近づいていく。
「嫌ですぅ~いやぁ~」
間の抜けた声などお構いなしに、グロテスク達がゆっくりとドリームに襲いかかろうとして――
「いやぁぁぁぁぁぁ!!!!」
いきなりドリームがありったけの大声で叫んだ。刹那、彼女の体に電流が走り、同時に周囲の人々の目を焼ききらんばかりに閃光が放たれ、あたり一面を照らしつくした。
「っ!!??」
"お母様”とグロテスク達があまりの眩しさに目を覆った。
やがて――ふっと、何の前触れもなく、光は収まった。静寂を取り戻したその場を一同がゆっくりと目を開けると――
――ドリームの姿は消えていた。
逃げられた。そう判断するのに、時間はかからなかった。
「おのれ・・・おのれぇぇぇ!!!」
"お母様”は壮絶な怒りの叫び声を上げた。
最初のコメントを投稿しよう!