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第一幕 その4 作者=四つ葉のF
そしてこちらは「鬼も喰わない騒動絵巻」の世界。
よく晴れた時刻、人々で賑わう大路を一組の主従が都を見廻っていた。
先頭を歩くのは、濡れ羽色の髪を靡かせた高身長の二十代後半くらいの美しい青年。
都の守護、源頼光。その後ろをカルガモの子のように四人の幼い少年が付いてきている。
「今日も都は平和ですね、頼光さま」
すぐ後ろを歩く朽葉色の短髪の少年が口を開く。
部下の渡辺綱。主君ほどではないが整った顔をしている。
「日の登る内はそのように感じるものだ。鬼も賊も光を嫌うものだ」
頼光の声は澄んだ中に厳しさが入っていた。
「おてんとさんは悪いもんをおっぱらってくれんのか?」
赤い前掛けを付けた一番背の低い子ども、坂田金時が嬉しそうに空を見上げる。
「いやいや……そういう意味じゃねぇって」
金時の前を歩く、一房だけはねた髪が特徴的な少年、卜部季武が振り向き手を横に振る。
「鬼はまぶしいのが嫌いなんだよね! お坊さんの頭とかダメなんだよー」
烏帽子の傾いた丸い顔の子どもが両手を上げにこにこと笑う。
「金時も貞光も呑気だよな……オレにもうつったみたいだな」
綱が大きく溜息をつく。前を歩く頼光の背中は大きい、小さな綱には超えることができないくらいに。
綱にとって強く美しい頼光は憧れである。厳しい中に綱ら四人を何より大切に想う優しさがある事も知っている。
「綱はまともだぜ。脚の長さ以外はな」
季武が綱の背中をバシバシと叩く。
「誰が短い脚だ! トベキブ!」
「言ったな!」
綱と季武が歯ぎしりをしながら火花を散らしていると、急に頼光が足を止めた。
後ろの四人は頼光の背中にぶつかったが、頼光は全くよろけなかった。
「空の色が変わった……何かが起こるというのか」
鋭くなった黒曜石の瞳が空を仰ぐ。青かった空が虹の色へと変わり輝いていた。
「こわいよぅ!」
怯えた貞光が頼光に抱きつく。大路を通っていた人々も混乱し、騒いだり逃げたりしだした。
「私から離れるな」
頼光は四人を守るように腕を広げた。
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