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生徒会の牛島君
「小野さん。小野日向さんは居ますかー?」
「あ、牛島君……」
グラウンドに練習に行った馬場君と入れ替わりに、今度は牛島君がやってきた。
音楽室のドアを開け、
「失礼します」
と丁寧に一礼した後に顔を上げて、ちょいちょいと私を手招きして呼ぶ。そこで私が彼の所まで行った。
「今日の部活の終わりは何時? 小野さんが部活終わる頃に合わせて僕も生徒会の仕事を切り上げようと思うんだ」
落ち着いた声で聞かれた。
「えーっと、確か4時50分に終礼するって顧問の先生が言ってた……かな?」
ちらりと佳奈美に視線で問えば、もう既に揶揄う姿勢に入っている顔で頷いた。
「じゃあ、そのくらいに集中下足室で」
そう言うと、牛島君は教室棟の西側に位置する管理棟の生徒会室に向かった。
「今度は学年1位の牛島君かよ……。ひなたん、やっぱすごい」
牛島君が去った後、速攻、「今か? 今か? 今だな!」状態の佳奈美から言われた。
「だから、違うってば」
こちらも誤解を受けそうだから、やめてほしい。
牛島真輝。身長177cm。一年生ながらその有能さを買われて生徒会に勧誘され、生徒会運営を手伝っている。甘いマスクのメガネ男子で、そういう知的な雰囲気の彼が好きって女子もやたらと多かった。
それを知ったのはそれこそ集中下足室で。一緒に登下校すると、そういう場面に遭遇しちゃう。さすがに令和の今時、靴箱にラブレターなんて入ってないんだけど、代わりによくLIN○だか、メルアドだとか、何か英文めいた羅列のメモ紙が靴箱に忍ばせてあるのを朝は見る。帰りは、ファンの子が直接メモを渡しに来たり、呼び出されたりするのを、私はもう何度も見た。行きかえりの電車の中、駅の改札口で待ち伏せされていることもあった。
分かるよ。その気持ち。
牛島君、かっこいいし、優しそうだし、実際に優しいもんね。それが滲み出ているから、連絡先渡したがる女性は後を絶たない。
転校初日はそれこそびっくりしたけど、既に一か月が経つ。さすがに見飽きた光景になった。
クラスは残念ながらお隣の1年6組。でも、何かと彼には助けてもらっている。
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