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秋田さんを付け回すもの
時々歯がカチカチと震えて聞こえるくらいに、佳奈美は怯えていた。
『一週間くらい前だったかな。誰かに後ろをつけられているような、そんな感覚があったの。でも、振り向くと誰も居ないから、ただの気のせいだと思ってた。私、自意識過剰かなって感じで』
「ふむふむ」
『あ、でも気のせいじゃないし自意識過剰でもないと思うの。だって視線も感じるけど、足音もするのよ! 人の多い所ではよく分かんないけど、人が少なくなってきたら聞こえるの。気味悪いことに、私の歩調にピッタリ合わせて聞こえるのよ、誰かの足音が。
だから絶対に誰かついてきていると思って、振り返ると誰も居ないの。きっと、巧妙に隠れているんじゃないかと思ってた』
「なるほど。それは……」
私は「怖いわね」と言おうとしてやめた。
そうでなくても佳奈美は十分すぎるほど怖がっている。これ以上、怖いという事実を突きつける必要なんてどこにもない。
『最初は駅の周辺辺りまでだった。次は、駅前のコンビニくらいまで。次はその先の公園。昨日は家の近くの団地までついてきてた気がしたの。
よく考えたら、だんだん家に近付いてきている!』
とうとう佳奈美は泣き出してしまった。
「……」
私は
(ああ……これは絶対に気のせいじゃない)
と確信をもった。
『うぅ……ごめんね、ひなたん。大きな声を出して。
今日もね、やっぱり足音がして視線を感じて、何かがついてきている気がしたの。それで家の前で立ち止まり、誰も居ないか見回したの。そしたら、やっぱり誰も居なくって……。すごく気味悪くて不安だったけど【やっぱり気のせい。気のせい。私の自意識過剰】って思いながら、玄関を開けたの。
その瞬間、全身の毛穴が開くかのようなぞわっとした感じがして、私以外の誰かの声が耳元で【ただいま】って言ったの。
びっくりして慌てて玄関に入ってドアを閉めたわ。でも、玄関の扉の向こうには誰の姿も見えないの。
ね、変でしょ? ううん、変なのは私かな? 疲れているのかな? やっぱり気のせいかな?』
佳奈美は自分を無理やり納得させようとして言っているようだった。
「佳奈美……あの、落ち着いて聞いてね。変なこと言うようだけど、何があっても大きな声は出しちゃダメ。それから何か見ても、それと目を合わせちゃダメ」
『え? 何、それ』
当然の疑問。
「え……っと」
私はなんと答えたらいいか分からずに、答えに窮した。
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