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「ひどいなあ…本当に、あなたはひどい人だ」
「…ふん」
牡丹は力を込めて、男の腕を振り払う。男は膝の上で抱いていた牡丹をそっと床に降ろし、無精髭を撫でながら立ち上がる。
「…じゃあ、そろそろ俺は行かなきゃ」
男は腕時計に視線を降ろした後、座り込む牡丹の表情を見て微笑んだ。
「そんな不安そうな顔しなくても、すぐに会えるよ」
「…それはどういう意味だ」
「さてね」
「お前、一体何を──」
牡丹の言葉を遮るように、男は牡丹の着物の懐に一枚の紙を忍ばせ、背を背けた。男が向かうのは「関係者以外立ち入り禁止」の札が掛けられた扉ではなく、先ほど牡丹が通ったばかりの扉だ。去りゆく背を、牡丹はただ呆然と眺めることしか出来なかった。
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