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もう長い間、牡丹はある理由から屋敷に引き籠り続けていた。心が汚泥の沼に浸りかけているのに、牡丹は抗うことをやめて沈みゆくままにしている。そんな彼女を心配した李音は個展のチケットを買い、ここまで持ってきたというわけである。 「李音…」 「なあに?」 「お前も行く?」 「ええ、もちろんよ。そのつもりでほら!私の分もばっちり買っちゃったわん」 李音は右手を掲げた。指の間にはチケットが挟まっていた。 「今度の…水曜日でいいかしら?」 「…なんでもよい」 「じゃあ、今度の水曜日にしましょう。車は正面玄関につければいいかしら」 「よい、こちらで車を出す」 「…そういえばあなた、他人の家の車はあまり好きじゃなかったわね。分かった、じゃあよろしくお願いするわね。これから用事があるから一緒にいられないけど、またお茶する時は呼んで頂戴」 話が終わるなり、李音は牡丹の頭を撫でて、そのまま背を向けて去って行った。牡丹はその背を見送りながら、握りしめたチケットを胸に抱いた。
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