65人が本棚に入れています
本棚に追加
「寝かして置いてあげたいところだけど、今日は画を見るために来たんだもの。ほら、起きて頂戴な」
ぐずる牡丹をあやしながら、李音は手を差し伸べてくる。牡丹は李音の手を眺めながら、意識を覆う霧が晴れるまでじっとして、ようやく手を取った。
車の外に出ると、清涼な風が牡足元を吹き抜けていった。
とはいえ、日差しは強い。
護衛が日傘をさしかけくるのと同時に、李音が手をひいてきて、花小路邸に通じる砂利道を歩いた。
ビル街を遠く離れた場所にあるこの花小路邸は、大正時代の金持ちが建てた邸宅で、竹林の奥にある。
故に砂利の敷かれた道の脇には青い竹が背を競うように生えていた。時折、竹林の合間から古い井戸や用途の分からない蔵のような建物が覗く。閑散としているため、眺めはすこぶるよかった。
「立派な竹林よねえ」
「左様でございますな」
李音と運転手があたりを見渡し、関心している中で、牡丹はあたりに視線を巡らせながらも、心の向かう先へ足を急がせていた。
その瞳には、淡い光が灯っている。李音がそれを見て取ると、安堵の微笑みを浮かべた。
最初のコメントを投稿しよう!