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「あ、あれじゃない?」
砂利道を少し登った先に、小さな邸宅が佇んでいた。古いように見えるが、再建したのはごく最近である。しかしどこか歴史を感じさせ、胸に高揚を与える外観をしていた。純和風に見えるが、内装は和洋折衷のつくりをしていることを牡丹は知っている。砂利道を登り終えて、正面玄関へたどり着く。運転手が全員分のチケットを「ようこそ」と言って寄って来た女に手渡すと、女は「どうぞお楽しみください」とほほ笑み、展示場所へと繋がる扉まで牡丹達を案内した。屋敷の中は独特の香りで満たされている。古い書庫の中にいるような気分だが、磨き上げられた内装を見ると、不快にはならない。女に即されるままに、展示場の中へ入ると、そこには牡丹達以外、誰もいなかった。村谷菊子は、あまり有名な画家ではない。が、無名と言うわけでもない。しかし今回は小規模な個展であるらしく、今は平日の昼間だ。閑散としているのは仕方のないことだろう。
周囲から視線を外して、牡丹は入って来てすぐ目に飛びこんできた大きな画が見上げた。大河に浮かぶ小舟に、なまめかしい女が1人。木の棒を持って、遠くそびえる山を眺めていた。
「お前達は、先に行って」
つまり、1人で見たいということだったが、護衛は首を振った。
「行け」
「それは出来ません。…どうかご理解ください。また以前のようなことがあっては大変です」
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