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ふと、昔見た「牡丹」の画を思い浮かべた。いつまでも変わらない、記憶の中に根を張る暖かな画。けれど視界を満たす画にはどこか嫌な生ぬるさを感じた。
一体どうしたことだろう。
ふいに、扉の開く音がした。この大広間には全部で3つの扉がある。1つは案内されたドア。つまり入り口だ。そしてもう一つは次の展示場へと通じるドア。そして反対側のドアには「関係者以外立ち入り禁止」の札が掛かっていた。開いたドアは、その扉だ。
(醜い……)
心の中で呟いた。
扉からあらわれたのは、乱れた着物に、薄い羽織をひっかけた、乱れ髪の女だった。まるで今まで艷事に興じていたかのようだ。喉元に不快感が込み上げた。
そんな牡丹の心など露ほども知らずに、女は口の端をつりあげて「そちらの画がお気に召しましたか?」と問いかけてくる。
女と言葉を交わすのが嫌で、問いには答えぬまま羽織りの裾を翻し、李音達が先ほど出て行った扉へと足を運ぼうとした。
「なんだ、こんな昼間に来客か」
瞬間、落雷のような緊張が牡丹の全身を突き抜けた。
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