第2話

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ふいに腰のあたりに違和感を感じた。どうやらがっしりと腰に腕を回されたようで、牡丹の脆弱な力では男を突き放すことが出来なくなっていた。口の中に溢れる唾液が、ほとんど男に吸い取られてしまった頃、ようやく男は力を緩め、震える牡丹をあやすように「良い子、良い子」と繰り返し、小さな身体を抱え込む。 「たまらんなぁ…甘い香りがする」 宣う男は、無精髭を生やした色男。藍色の瞳に艶やかな光を宿し、その視線は牡丹に釘づけで他の何も見ようとしない。他人が見れば何と慈しみに溢れた瞳なんだと号泣して拝みそうなものだが、牡丹にはこの男がとことん胡散臭く見える。この男は牡丹を愛おし気に眺めながら、牡丹の元をあっさりと去った。泣きわめく牡丹の静止を簡単に振り切れるような男なのだ。この男は。
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