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『…一度、別れようか』
男の言葉が、脳裏で火花を散らした。牡丹の右手は動き、男の頬を思い切りひっぱたく。
「ひどいなあ…せっかくの再会なのに。ひっぱたかれて俺は可哀相な犬だ」
「戯言を抜かすな。はやく降ろさぬか」
「ハハハ、怖い怖い」
男は笑いながらも、牡丹の要求を聞く気はないようだった。
「牡丹の命令を聞かぬか」
「どうして?俺はもうあなたのものではないのに」
冷ややかな言葉に、牡丹の身体は硬直した。確かに、この男はもう牡丹のものではない。そうだ。この男は牡丹のものではないのだ。いや、果たしてこの男が牡丹のものだったことなどあっただろうか。それすらも危うい。
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