第2話

11/16
前へ
/146ページ
次へ
「…っ」 牡丹は無意識に、男の乱れたYシャツを握りしめた。牡丹の意識の片隅でほのかな煙草の香りが漂う。そして気づいた。この男が常に纏う独特の香りの中に嫌に新鮮で甘ったるい花の香りがすることに。 (そういうことか…) これは女の香りだ。そうか、そういうことか。乱れた着物、乱れた髪。そこに立つ女と艶めいていたことをしていたのは、この男か。牡丹の脳裏に再び火花が散った。すると衝動的な吐き気が込み上げる。とうとう牡丹は息を乱し、喉元まで逆流したものを吐き出した。 「…お、ぇ…ぐ」 「どうした」 男は苦し気に顔を歪める牡丹を抱えながら、その場に腰をおろした。無我夢中でえずく牡丹を心配そうに眺め、服が汚れるのも構わず、彼女のまるまった背を撫でる。 「う…う、…うぇ」 苦しさのあまり泣き出してしまった牡丹を、男は愛おしげに眺めながら、小さく震える身体を抱いた。まるで長年探し求めていた宝物をようやく見つけ、二度と離さないと言わんばかりだ。牡丹は震える手で男のシャツを掴む。するとまた嫌な花の香りが鼻についた。胸元にせりあがる嫌悪感に牡丹は再び喉を震わせる。
/146ページ

最初のコメントを投稿しよう!

65人が本棚に入れています
本棚に追加