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「脱げ」
「ん?」
「この服を…脱げ、気持ち悪い」
言葉の意図を理解したのか、していないのか。男は無表情のまま牡丹の言葉に従った。露わになった体躯は非常に雄々しくしなやかで、まるで気高い獣のようである。
「俺の服を脱がせてどうする?」
「お前の服から嫌な匂いがした」
「…ああ、なるほど。あなたはあれだな、匂いに敏感だったかな?それで、嫌な匂いとやらは消え…っ!」
軽薄な言葉が紡がれるのを待たず、牡丹は男の肩に噛みついた。喉元まで至る嫌悪感と吐き気を抑えるのに、自分の手をこれ以上汚したくはなくて選んだ手段だった。男はそれでも動じず、牡丹の華奢な背を撫でて「よしよし」と宥めてくる。吐き気や嫌悪感とは違う。この胸元までせり上がる身を裂くような痛みはなんだろう。自分の感情に整理がつかず、牡丹は涙をボロボロと零した。
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