第2話

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「…菊子殿、出て行ってもらえるか。俺の願いはなんでも聞いてくれる約束だったろう」 にっこりと振り返る男の顔は、狂気に満ち満ちていた。瞬間、全身に怖気が走り、女は逃げるように踵を返し、元来た部屋へと走り去る。ついに大広間は牡丹と男の2人きり。男は女が走り去るところを見送ることなく、腕の中で泣く牡丹へと視線を注いだ。 「口元が涎でべったりだ。ハンカチは…確か、いつもここに入れていたな」 男は牡丹の着物の袂に手を入れ、ハンカチを取り出した。 「…離せ」 「駄目、じっとしていなさい」 男は牡丹の口元を丹念に拭いた。 「あなたは感情の制御もままならないね」 「うるさい」 「口が悪いのも相変わらずだ。もう噛むのには飽きた?もっと噛んでいてもいいぞ」 「いらない、まずい、帰る」
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