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戸が閉じるのと同時に、霞は立ち上がり、事が起こっているであろう部屋へと向かう。
廻廊を進みながら、ふと、濃厚な香りが彼女の鼻孔をくすぐり、引き留めた。
『あんな屑、拾ってやるんじゃなかった!』
『お前は牡丹のものなのに!』
霞は眉を顰めた。
悪夢に魘される少女の姿。自分は小さな少女をただ呆然と眺めて、手を伸ばすことさえ出来ずにいた。金木犀の香と共に、少女は蛇が獲物を見るように笑んで、狂気に身を委ねていく。そんな姿を見つめながら、霞は空気と変わらぬ息をするだけ。
「ああ!霞様!」
ハッと我にかえる。視線を前へ向けた。額に汗をかいた女達が逃げるように向かってくるのが見えて、霞は歯噛みした。まるで自分の姿を見ているようで嫌になったのだ。
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