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「お嬢様」
「…あの女を屋敷から追い出せ」
「お嬢様、どうかお許しを…私が念を押すように説明していればよかったのです。責任は私に問うてくださいませ」
「牡丹は部屋に花を飾るなと言った!」
「本当に申し訳ございません。すぐに片付けますので…どうか、気をお鎮めになってくださいませ」
祈るように囁いて、しばらくの後、少女─牡丹はようやく落ち着きを取り戻した。
流れるような黒髪が肩に零れるのも厭わず、牡丹は涙の跡が残る顔のまま気絶するように眠りについた。
彼女は夜眠ることが出来ず、目元に隈をつくっていた。
そして泣き疲れるか、あるいは感情を暴発させた後の疲れで眠ることが多くなった。
最近は癇癪をおこすか、突然泣き出すことが増えて、秋橋家に仕える者達も気が気ではない。
しかしどうして牡丹がそんな風になってしまったのかを知る者はいない。
秋橋の当主の知るところではあるかもしれないが、それを当主本人に問う勇気のあるものは誰1人としていない。この家はどこか歪んでいながら、表面上は大層優美で静かだ。しかし内情はこの様である。霞はそっと溜息を吐いて、牡丹の顔にかかる絹糸のように細い髪を丁寧にはらってやった。
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