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目が覚めると、見慣れた四季折々の花の絵が視界に飛び込んできた。 牡丹は天井から視線を外し、部屋の四方へと流す。 御簾は降ろされたまま、向こう側にあったはずの欠けた花瓶や水、花は無くなっている。 牡丹は鉛のように重たい腕を霞が敷いたであろう敷布団に突き立てて、上半身を起こして立ち上がった。布団の端に置いてある扇を袂へ入れ、身体に被せられた羽織をひっかけ、御簾をくぐった。襖は開いている。牡丹は縁側へ出て、何も履いていない足を内庭におろした。冷たい地面の感触に何の感慨も抱かぬまま、金木犀の元へと向かう。 「牡丹様、履物を」 後ろから声を掛けてきたのは、霞だった。 「良い、履物なぞいらぬ」 牡丹が一瞥することもなく告げると、霞は深く一礼した。 「ご気分はいかかでしょうか」 「気分が良さそうに見るのか」 「先ほどよりは、よろしいようにお見受け致します」 「…よろしくなんかない。お前は長年仕えているのに、牡丹の気分すら分からないの」
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