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第11話「勢力図その2」
城の案内がおおかた終わり、染五郎が本を借りたいと、蘭丸の部屋に向かっていた。
坊丸は途中で、信長様の食事を運ぶからと行ってしまった。
御影がにやっと笑う。
「蘭丸の部屋でえろ本探そーぜ!」
「すぐ見つかるから、つまんないよ」
七之助が笑う隣で、染五郎が真っ赤な顔で首を振る。
「違うよ。俺が貸して欲しいのはえろ本じゃなくて、戦法と茶道に関する……」
「あ、女の人」
向かいから侍女が三人、ザワつきながら、歩いてきた。
女性たちが生活している建物は隣の棟なので、この辺りにいるのは珍しかった。
「ねぇ、あの紙、みつかった?」
「ないわー」
「困りましたね」
「あの紙、もしも、信長様に見られたら切腹だわぁ」
「それはないわよー。どうせ、見たって意味わかんないでしょうし」
「そーぉ?」
「まだ帰蝶様に、お見せしてないのに」
「どーせ全部覚えてるんでしょ。また紙に書きましょ」
「そうするわ」
「私、紙いただいてきます」
二人は20前後の女性で、その後ろに、まだ背の低い少女が、紙を取りに向かおうとしていた。
蘭丸はその侍女に、いつものようににこっと笑顔で話しかけた。
「はづきさん、どうされたんですか?」
「きゃっ!あっ、蘭丸ちゃんっ!な、なんでもないの!」
はづきと呼ばれた娘は15歳の女の子だった。
「困ったことがあれば、声かけてください。力になれるかもしれません」
「ありがとう。蘭丸ちゃん。かわいい」
後ろから二人の侍女も蘭丸たちを覗き込む。
「ホントに可愛いわ」
「七之助ちゃんも可愛いわねー」
「可愛いわー」
「二人は新しく入った子?」
染五郎と御影を嬉しそうに見つめる。
「雇い忍者の御影と、正興様の寵童になった染五郎で……」
「やだぁ……!」「正興どの……」
二人の侍女は手を口に当て、顔を見合わせる。
一人はもう一人の二の腕をがしっと掴んでいた。
「んもぉ、可愛いわねぇ、二人とも」
「本当に可愛いわ」
可愛い、可愛いを延々に繰り返しながら、侍女たちは去っていった。
染五郎が蘭丸の顔を見る。
「やだってどういう意味……?」
「んー、なんて説明すればいいのかな……」
「俺が正興様の寵童でよくなかった……?」
「むしろ逆だと思う」
「ハマりすぎてヤバイみたいな」
ふと、蘭丸が縁側の下に紙きれが落ちているのを見つけた。
拾い上げる。
そこには、文字がびっしりと書かれていた。
「なにこれ?」
「『第128回尊いカップリングランキング☆』だって!」
「え!?何それ!?」
「見せて!」
蘭丸たちは小さな紙きれを覗き込む。
出遅れた染五郎が七之助と御影の狭間から、懸命に見ようと体を右往左往させている。
第128回 尊いカップリングランキング☆
1位 信長×佳秋 208票
2位 蘭丸×七之助 53票
3位 信長×蘭丸 52票
4位 佳秋総受け 50票
5位 信長×佳鷹 49票
5位 信長×雪 49票
7位 七之助総受け 48票
8位 佳鷹×蘭丸×雪 47票
9位 佳鷹×寿々晴 45票
10位 信長×光秀 3票
「あははっ!なにこれー!(笑)」
御影は廊下に転げ周り、大爆笑し、だんだんと床を叩いていた。
蘭丸は紙が震えるほど笑うので、染五郎ががしっと掴み、ガン見した。
「よ(笑)し(笑)あ(笑)き(笑)」
「信長×蘭丸が上がってる!」
蘭丸が嬉しそうに目を輝かせる隣で、七之助がしょぼーんとつぶやく。
「……一益様がいない」
「か、か、かずますは……ふつめん(笑)、ぶふっ、だからなっ(笑)」
「フツメンじゃないもん!かっこいいもん!」
「七之助総受けに含まれてるんだよ」
「……」
未だに、染五郎は無言のまま、紙を穴が空くほど見つめていた。
御影がにやにやと笑う。
「やっぱり、佳秋受けだよな!わかってんじゃん!つーか、この雪って、姉さんだよな。佳鷹は誰?」
「うちの長男」
「ちょうなん!?めっちゃランキング入ってんじゃん」
蘭丸は自分の顔を指さす。
「だって、この顔が、いいお年頃になって背も伸びで、おまけにやることなすこと男前でドSだもん。モテモテだよ」
「ますます会いてー!決めた!俺、お前ら兄弟コンプリートするわ!」
「上からいってね。坊丸には優しくね」
蘭丸はもう一度、紙に視線を戻し、10位を見た。
「信長×光秀。そう来るか」
「その発想なかったね」
「でも、よくない?散々、罵られても嫌いになれない光秀殿、ついに体を許す」
「きゃー!」「やば、萌える」「あはははははははは!」
「そのうち、染五郎もランキング入ってくるよ」
「ぇ……」
「ん?」
紙の下の方に小さく『番外編 信長×秀吉』の字を蘭丸は見つけた。
「これはない」
蘭丸は上から墨で黒く塗り潰した。
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