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乙女ゲーム的な世界(仮)
うんざりすることは、主に2つあった。
1つは、あろうことか私がツンデレ王子へと転生し、記憶が混ざり合って妙な性格になってしまったこと。
もう1つは、あの神様が言っていた『乙女ゲーム的な世界』の実相である。
私は、学院の宿舎に用意されたVIP用の執務室で、マホガニーのつややかな机に乗った報告書を睨みつけた。
「アルハイン王子は、我々を含めた3勢力の協力者を買収しようと試みているようです」
「金に、脅しに、爵位の確約まで……なんでもありだな」
「我々がメリッサ殿をお守りしている以上、直接の接触よりも〝環境の整備〟を優先したのでしょうな。今後も、搦め手による攻勢を強めてくるかと」
初老の執事は、やや同情を含んだ眼差しで告げた。私の顔に、疲れや緊張を読み取ったのだろう。
黒革に包まれた荘厳な椅子に身体をうずめながら窓を見ると、銀髪と浅黒い肌のイケメンが映っている。疲れが宿った切れ長の目に、私も同情した。
セントラム帝国。巨大な大陸の3分の2を掌握するこの大国は、現在、多数の反乱分子による革命が疑われる──とされていた。
だが、秘密警察のような組織を配置して民衆を取り締まれば、世論はたちまち反抗し、かえって革命を後押しするだろう。
そこで、王は非暴力的な手段による解決策を編み出した。
この国で古来より信仰されている神の神託を賜った少女を、貴族が集まる学院へ入学させる。
この少女と愛を成就した者の勢力に、神の正当性を与え、権力を強化する。逆に、敗者の勢力は予算や権力の削減を行う──。
乙女ゲームからそのまま出てきたような純朴少女メリッサを奪い合うことは、この世界においても一種のゲームなのだ。
そして、最もタチの悪いことは──このゲームに、次期国王とされる王子が参加していることだった。
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