襲われた王子と主人公ちゃん

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襲われた王子と主人公ちゃん

「フィルっち! 賊って、本気で言ってんの!?」 「私とて信じがたい……! だが、王子とメリッサが何者かに襲われているのはたしかだ!」 「チッ、こっちはロクな武器もないってのに……! とにかく行くぞ、二人とも!」  私、リュカ、フィルマンを筆頭に、数十名の学生や従者が馬を駆る。いくら学院が広大な敷地を持つとはいえ、この異様な光景に、貴族の子息たる生徒たちは奇異の目を向けてきた。    事態は、このうえなく複雑だった。  まず、アルハインは全員での昼餐から抜け駆けするため、メリッサへ迎えの馬車を出した。『ディオスが依頼したもの』として偽装した馬車をだ。王子は、まんまとメリッサを連れ出すことに成功した。    が──この馬車を、何者かが襲撃したという。  学院がいくら広大であろうと、それを警備するだけの兵力を△△国は配備している。外部からの干渉を阻止し、確実にアルハインを勝たせるためだ。過剰防備と言ってもいい。    アルハインが暗殺されないよう、非暴力の原則によって学院内での武器の携帯は禁止。料理人でさえも、学院側の監視員たちが厳格に管理しているほどである。  この学院内に、武器を持って歩き回れる者はいないはずなのだ。  だが、フィルマンの情報網から発覚したのは、黒装束をまとった所属不明の襲撃者の存在だった。アルハインが護衛をつけないようなヘマをするはずはないのだが、従者も含めて圧倒されたのだろう。    フィルマンは策謀よりも、情報や学説の正しさを保つことに心血を注ぐ男だ。襲撃が誤情報とは考えにくい。  とすると、かなりの手練が王子とメリッサを狙っていることになる。  私は叫びだしたかった。王権争いや戦記物じゃなく、ただ恋愛が見たいだけなのに。これじゃ乙女ゲーどころか、中世版の火サスみたいなもんだ。 「いたよ! あそこ!」  リュカが指す先には、なぎ倒された馬車と、気絶した十数名の従者らしき者たち。緊張で張り詰めたメリッサを守るように立ちつつも、苦渋の面をしているアルハイン。    そして、黒いボロ布でできたローブをまとう20名近くの賊がいた。 「……幸せな学生サンたちのお出ましか」  騎馬隊のごとき集団に対し誰ひとりとして動じない中、賊の中心にいた男が振り返る。    私は予期していた。  本来ならあり得ないはずの事件を起こせる、一人の男を。 「生きていたのか……ヴァレリアーノ・グゼラ」
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