54いつもの日常の平和な光景

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 学校は何と徒歩圏内にあった。まさか学校が歩いて15分ほどの場所にあるとは思わなかった。 「ていうか、九尾。あんた、先生なのに、私たちと一緒に登校してよかったの?先生なら、もっと早く登校しなくちゃいけ」 「なぜ、我がほかの教師と一緒だと思う?我は我の行きたいように学校に行くだけだ」 「九尾のことは気にしなくていいですよ。それより、お昼は教室に迎えにいくので一緒にお昼を食べましょう!」 「翼と一緒にオレもついていく」  結局、私たちは全員で家を出た。一緒に行動することはあっても、足並みそろえて一緒というのは初めてな気がした。現実の彼らは人外で、世間で堂々としていられる存在ではない。私もまた、一般人からかけ離れた人外みたいなものなので、こうやって朝から堂々と外を歩くのはなんだか新鮮だった。  それにしても、なぜ九尾だけケモミミ美少年姿のままなのか謎だ。服装もその姿でスーツというわけにいかず、パーカーに半ズボンというかなりラフな格好だった。それで先生というのは、なかなかぶっ飛んだ設定だ。まあ、夢なので気にしなくても大丈夫だろう。  朝は、誰もがせわしなく学校や勤務先に向かっている。車も人もなんとなくせかせかとしている。そんな中、私たちの間だけ、のんびりとした空気が流れていた。 「おはよう!蒼紗、今日も素敵ね!」 「おはようございます、蒼紗さん」  学校に着いて玄関で翼君たちと別れた私は、自分の下駄箱を探していた。すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえる。振り返ると、そこには予想通りの人物が私を待ち構えていた。 「おはようございます。ジャスミン、綾崎さん」  二度目の大学で知り合った人たちは、もれなく高校に通っているのかもしれない。ジャスミンも綾崎さんも私と同じセーラー服を着用していた。しかし、どうにも私と同じ制服には見えなかった。 「やっぱり、私も蒼紗さんみたいに制服を改造したほうがいいでしょうか。毎日、思考を凝らした変化は素晴らしいです」 「スカーフの色を変えたのね。昨日は確か、黄色だったから。カラーも違うのね」 「はあ」  制服を改造など、いったい何をほざいているのか。制服は校則通りに着こなすのがセオリーのはずだ。とはいえ、目の前の2人と私の制服は同じようで同じではなかった。  まず第一に、スカートの長さが違う。私はひざ丈くらいだったが、彼女達はそれより短くしていた。今時の若者、という奴だろう。あとは、綾崎さんの言う通り、スカーフの色が彼女たちは白色だったのに対して、私は真っ赤な色のスカーフだ。よく見ると、セーラーのカラーも私は二本の白いラインが入っていたが、彼女達は無地だった。 「何ぼうっとしているの、さっさと教室に行きましょう」  ジャスミンの声に我に返る。校則の緩い学校なのだと自分に言い聞かせて、私はジャスミンたちの後ろに続いて教室に向かうことにした。 「おはよう、蒼紗。やっぱり、あなたには赤いスカーフが似合うわ。私とおそろいね」  廊下を歩いていると、懐かしい声が私にかけられる。その声はもう二度と聞くことができないはずだった。だって、彼女はすでに。 「そんなに驚いた顔をしてどうしたの?私の美しさにやられてしまった?」 「や、やっぱりこれは夢」  声の主を確認するために振り返ると、そこには亡くなったはずの西園寺桜華が立っていた。夢の中とはいえ、まさか再会できるとは思わなかった。彼女もまた、私と同じ赤いスカーフをつけていた。 「桜華。あまり朔夜をいじめるな」  西園寺桜華の隣には当然のように雨水君がいる。夢の中でも雨水君は彼女と一緒に行動をしているのだろう。 「別にいじめていないわよ。ああ、なんで蒼紗とクラスが違うのかしら?一緒だったら、ずっと一緒に居られるのに」 「残念だったわね。あんたと蒼紗は結ばれない運命だったってことでしょ。蒼紗と運命の赤い糸で結ばれているのは私。悔しがるがいいわ」 「佐藤さん、嘘はいけません。もし、運命の赤い糸があるというのなら、それは蒼紗さんと私を結ぶ糸に違いありません」  目の前で現実でもよく見る見慣れた口論が始まる。当然、口論をしているのはジャスミンと綾崎さんだが、今回はそれに加えてもう一人参戦している。  この三人が口論している光景は現実では起こりえないことだった。現実と時系列が違っている。  そもそも、私は最初に西園寺桜華に目をつけられて、趣味のコスプレに付き合わされることになった。ジャスミンは西園寺桜華にあこがれていたので、彼女と一緒にコスプレする私が気に入らなかった。その後、瀧との一件があり、ジャスミンを助けたことで風向きが変わった。助けたことが原因なのか、それ以降、ジャスミンは私と一緒に行動するようになった。
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