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嘘ではない。ただし、私の幼馴染はすでに90歳を越えた高齢女性である。彼女たちが想像するような年の近い、10代や20代の人間ではない。
「幼馴染との偶然の再会、ですか。そ、それはちなみにお、男ですか。お、女ですか?」
「偶然の再会って、蒼紗のことだから、綾崎さんが言うようなロマンチックなことにはなっていないと思うけど」
「そんなことないですよ!蒼紗さんだからこその、ドラマチックでロマンチックなことが起きて……。ううん、確かになさそうですね」
「だから言ったでしょう。蒼紗のことだから、『お久しぶりです。元気そうで何よりです』『蒼紗こそ、昔と変わらないわねえ』なんていう会話しかしてないわよ」
せっかく私が彼女たちに幼馴染との再会の話をしたというのに、ジャスミンも綾崎さんも好き勝手言っている。別に間違ってはいないが、なんだか無性に腹が立つ。なんだか、私には、ロマンチックやドラマチックなことが起きないような干物女だと思われていないだろうか。
「わ、私だって、劇的な出会いぐらいありますからね!」
『ブハッ』
二人が急にむせ始めた。慌てて麦茶を口にしてごまかそうとしているが、その背中は小刻みに震えていた。私のことを笑ったことはバレバレだ。
「私のことを馬鹿にしていますね。笑っていられるのも今のうち」
「面白そうな話をしていますね」
「お断りします」
突如、うら若き女子大生の会話に水を差す野蛮な男が現れた。即座にお断りすると、苦笑される。断るのは当たり前であるのに、なぜ笑っているのか理解不能だ。そもそも、私はこの男が心底嫌いだ。
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