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「もしもし」
「あ、蒼紗先輩ですか?向井ですけど、今、お話よろしいですか?」
彼女の声を聞いて重要なことを思い出す。彼女の曾祖母である荒川結女が亡くなったが、葬儀はしたのだろうか。最期の別れは病院だったが、その時は彼女の死について実感がわかなった。そもそも、死ぬだろうと、九尾や車坂から聞いたに過ぎない。実際に自分の目で確認したわけではない。葬儀には出られないが、彼女の死が確実なものだという事実が欲しかった。とはいえ、亡くなったのはビルの火災があった日だろう。葬儀はすでに終わっているだろう。
「蒼紗先輩?」
「ああ、はい。今大学の食堂にいるんですけど、だいじょう」
「大丈夫じゃないから、また改めてかけなおしてくれる?」
ジャスミンたちには悪いが、このまま電話を続けようとしたら、何者かにスマホを取り上げられる。そして、私の代わりに向井さんに話しかける。
「じゃ、ジャスミン!どうして」
「そうそう、あんたの退学理由を駒沢先生が気にしていたわよ。何か申し開きがあるなら、電話じゃなくて、直接蒼紗と会って話すことね。これ以上、蒼紗を面倒事に巻き込まないで頂戴」
まったく、私が電話をしている途中で邪魔するとは。駒沢の追及を止めてくれたことはありがたかったが、今回の行動はいただけない。
「はい、スマホは返すわ。それより、駒沢と私たちを残して一人だけ席を離れるなんて、どういう了見かしら?」
通話を終えたスマホは画面が真っ黒になっている。返してもらったスマホを手に持ち、ジャスミンを睨みつけたが、彼女の怒った表情には勝てない。瞳が爬虫類のように瞳孔が横に開いてしまっている。
「さ、佐藤さん。私を置いていかないでください!」
そこに慌てて近づいてきたのは綾崎さんだ。ジャスミンは小ばかにしたような表情で綾崎さんに突っかかる。
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