53上司の言葉

4/4

6人が本棚に入れています
本棚に追加
/207ページ
 勝手に人の記憶をいじらないでほしい。今までだって、たくさんの人の死に直面してきた。しかし、それらを乗り越えて今の私がある。いちいち人の死ごときで記憶を消してもらわなくても大丈夫だ。 「だったら、生徒たちが来る前に、さっさと元の表情に戻しなさい。陰気くさい顔をしていたら、授業に差し障ります」 「ワカリマシタ」  午前中は翼君がシフトに入っていなかったため、私と車坂の二人での対応となる。向井さんはビル火災の翌日に、車坂にバイトを辞めたい旨を電話で伝えたそうだ。車坂はすでに生徒たちに彼女が辞めることを話していた。生徒たちは短期間しか関わりがなかったにも関わらず、向井さんのことを寂しがっていた。 「おはようございまーす!」  話しているうちに、生徒が来る時間が来てしまったようだ。元気な声で挨拶してきた声に、頬を軽くたたいて気合を入れる。 「おはようございます」  ドアの前に立ち、生徒を迎え入れる。一番に来たのは、小学生の兄弟だった。午前中は滞りなく仕事を進めることができた。  
/207ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加