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彼らに組合での仕事の人探しの代役を頼んでいたことを思い出す。結局、彼らの出番はなかった。
「どんな感じだと言われても、今まで通りですよ」
「とりあえず、彼らの出番がなくて良かったですね」
翼君の言葉に納得する。三つ子のことを今日は気にしてみよう。頭に彼らのことをメモして、私は午後の塾の仕事に向かうのだった。
塾のシフトが同じときは、目的地が同じため一緒に家を出る。翼君と家を出た私は、雲一つない快晴の空にげんなりする。
「梅雨のどんよりとした天気も嫌でしたが、こんな雲一つない快晴で、太陽が出ている日も嫌になりますね」
「そうですか?僕天気がいいと気分が上がりますけど」
「それは、この暑さがなかったらの話ですよ。ああ、翼君は」
人間ではないから、暑さを感じないのか。
口から出かけた言葉を慌てて飲み込む。いくら今は人間ではないと言っても、元は歴っとした人間だった翼君に、告げて良い言葉ではない。
「別に僕は気にしていませんから。とはいえ、季節を肌で感じることができなくなって少し、寂しい気がします。まあ、おかげでこんな日も快適に過ごせますけどね」
自嘲気味に笑った翼君にかける言葉が見つからない。今の彼は、私と同年代の普通の青年男性にしか見えない。20代の若者の姿をしていた。それなのに、その顔に浮かべる表情は妙に達観していた。
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