【番外編】もしも、高校生だったなら……

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 どうやらこの世界は私の予想通り、私の大学生活で知り合った人間たちがもとに構成されているらしい。だとしたら、翼君の言葉は正しい。仮病でないのなら、学校にはきちんと行くべきだ。 「とりあえず、さっさと着替えてきてください」 「ワカリマシタ」  翼君にせかされて、私はしぶしぶ椅子から立ち上がり、二階の自分の部屋に向かう。確か、部屋を出るときにちらりと制服らしきものがクローゼットから覗いていた。あれを着て学校に行けということだろう。 「ああ、懐かしい」  部屋のクローゼットにかけられていたのは、奇しくも私が大学一年生のころに西園寺桜華に無理やり着せられたセーラー服だった。形も色も記憶のものと一致していた。紺のセーラー服に赤いスカーフで、スカートの長さはひざが隠れるくらいの長さ。スカート丈がミニスカートでないところも同じだ。 「西園寺さんもいるのだろうか」  思わず、つぶやいた言葉はひとりの部屋にやけに大きく響いた。だって、これは夢だから。夢の中なら、既に死んでしまった彼女にも会えるだろうか。 「いやいや、感傷に浸っていても仕方ない。まずは着替えるか」  気は乗らないが仕方ない。私はクローゼットからセーラー服を取り出し、着替え始める。これを着た当時は、まさかこんなに大変な大学生活が待っているとは思っていなかった。  人生、何が起こるかわからないものだ。  トントン。  着替え終えて姿見で自分の姿を確認していたら、ドアが控えめにノックされる。壁にかけられた時計に目を向けると、8時50分を示していた。そろそろ家を出る時間なのかもしれない。 「どうぞ」  律儀にドアをノックして入ってきたのは翼君だった。その後ろに狼貴君もいた。二人は学ランを着用していたので、こうして並ぶと本当に自分たちは今、学生をしているのだと実感がわいてくる。 「スカーフがずれてる」  急に狼貴君が私の目の前にやってきて、胸元に手を向けてくる。何事かと一瞬身構えたが、言葉通りに狼貴君がスカーフの位置を調整してくれただけだった。 「では、学校に行きましょう」  私の準備が整っていることを確認した二人が部屋から出ていく。慌てて、部屋に置いてあったリュックを抱えて私も部屋を出る。玄関にはスニーカーが並んでいて、どうやら彼らも私もローファーで通うわけではないらしい。昔とは違ってカジュアルになったものだ。手に持ったリュックもそうだが、どうにも違和感がある。  まあ、これは私の作り出した夢だから、全くの未知なことは反映できない。無意識に町で歩いている高校生を再現したのだろう。  家を出ると、外は雲一つない快晴でとても良い天気だった。  
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